教師


遠くで先生の声が小さく響く午後、忍術学園学園長の庵には、数名の教師が集まっていた。
ぶっふぉ、と独特の咳払いをし、学園町である大川平次渦正は穏やかな声で畏まる数人の教員に声を掛けた。

「そろそろ報告を聞こうかの?」

その声に一歩前に出たのはくノ一教室担任の山本シナ。

「ハッ、新木心愛に怪しい動きはなく、間者の疑いの余地もありません。本当にただの町娘だと思われます」

「ふむ、しかしやはり目的は…」

「はい、掴みきれておりません」

「その件についてお耳に入れたいことが」

山本シナの報告の途中、厚着太逸がすいっと進み出た。

「土井半助からの報告によると、新木心愛は『かみさま』や『いけめん』や『のうさつほせい』なる言葉を口にしているとのことです」

厚着の言葉に、その場の全員が首を傾げる。

「して、それは一体どういう意味じゃ?」

大川がそう問いかける。

「はい、『のうさつほせい』なるものは不明ですが、どうやら新木心愛は『へいせい』なる場所から『かみさま』と名乗るらしい人物によってここへ来たと言い、土井先生や立花仙蔵、久々知兵助、綾部喜八郎らのことを『いけめん』と言っておりました」

厚着のその報告を聞いていた野村雄三が顎を撫でながら、ふむ、と呟いた。

「学園長、もしかして『いけめん』とは若い男を指すのでは?」

その言葉に、なるほど、と頷く。

「若い男…しかも名を聞くと、皆割と顔立ちの整った者じゃな」

そこまでの報告を終え、教員は揃って溜息を吐いた。

「まさか、新木心愛の目的とは…」

「ふーむ、男漁り、かもしれんのぉ…して伝蔵、生徒のほうはどうじゃ?」

そう問われ、今まで黙って聞いていた伝蔵は一歩前に出て報告を始めた。

「は、どうやら上級生数名が新木心愛に惑わされていた様子ですが、忍務から戻った平澄姫によって正気に戻った模様です」

「ほぉ、さすが優秀じゃのぉ…」

大川は山本を見て、ニヤリと笑ってそう言った。
どことなく嬉しそうな山本は、満足げに一つ頷く。

「どうやら新木心愛は学園の害にはならんようじゃ、ならば尚更長々とここに置いておく訳にいくまい。近隣の町で仕事を見つけ、早急にそちらへ行かせるとしようかの」

そう言うと大川は自身の膝をぽんと叩く。
それを合図に、教員たちは一瞬で床下や天井裏に消えていった。



一人になった大川は、すっかり冷めてしまったお茶を啜り、障子を開けて空を仰ぎ見た。

「澄姫はよぉくがんばった。いやいや、女の嫉妬とは恐ろしいもんじゃ」

かっかっか、と高らかに笑い、さて部屋に戻って隠しておいた菓子でも食おうかと棚を漁る。

「…ん?確かここに…な、なんでないんじゃ!!?」

ガチャガチャと色んなものを放るも、目的の茶菓子は見つからない。

「どっこにもない…じゃと!!?一体どうしたことじゃ!!!神隠しか!!おのれわしの卯月堂限定白餡葛餅を〜〜〜!!!」



学園長の叫びは、ヘムヘムによって撞かれた鐘の音にかき消された。


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