角砂糖は恋の味

※転生&パラレル&現パロの三重奏です閲覧注意。
※滝夜叉丸視点




高校が終わってすぐ、姉を迎えに行くために商店街をひた走る。
弟の私が言うのもなんだが、私の姉はとても美しい人だ。
街を歩けばナンパにスカウト、それこそ一歩ごとに声をかけられてるんじゃないかと思う。現にそれに近い状態だから、澄姫姉さんは男避けと称して私を呼びつけているんだと思う。私は弟であって姉さんの騎士ではないですよと言ったこともあるが、お眼鏡に適う男が現れるまで貴方は私の騎士なのよと綺麗な笑みで返されてしまった。姉さんは姫というより魔女のような女なのにとは口が裂けても言えない。悲しいかな弟とはそういうものである。
今日も今日とて美しい姉と合流して、大川大学を出た。
すぐ目の前の交差点を左折、そこから十八軒目で時折走って2分少々、平均139.4歩目で到着する場所は数年前に開店した喫茶店『フェアリー』。
店名とはかけ離れすぎた寡黙で大柄で無愛想なマスターがひとりで切り盛りするその喫茶店。
通りかかる度に何か不思議な気分になっていたが、実際に入ったことはまだないそこには毎日のように屯っている5人組がいる。
そのうちのひとり、ぼっさぼさの頭とどんぐりのような目をした男性に、どことなく既視感を覚えていた私は姉と何気ない話をしながらガラス越しに店内を眺めるのが日課になっていた。
今日は姿が見えない、そう思って店内でグラスを拭いている寡黙なマスターを見れば、ガラス越しに姉と目が合って驚く。
いや違う、目が合ったことに驚いたんじゃない。姉さんの、なんというか、まるで恋する乙女のような、潤んだ瞳!!姉さんにもとうとう春が来たのか!!?
そう思っていたら、澄姫姉さんは小さく溜息を吐いて、呟いた。

「滝、ここのお店に入ったことはある?」

「へ?あ、いいえ、ありませんけど…」

「そう…ここのお店ね、かぼちゃのパイとシナモンティーがとても美味しいのだけれど、マスターがね…」

とても素敵な人なんですか!?そう期待して、やっと姉さんの騎士をバトンタッチする日が来たのかとワクワクしていると、姉の涼しげな瞳が獰猛な光を宿して私は竦みあがってしまった。

「あのひとったらね、不器用が化膿しちゃったような、ドジがとぐろ巻いちゃってるようなひとなのよ」

この私がこんなにモーションかけているのに、信じられないわ。そう締め括って頬を膨らませた澄姫姉さんはとても可愛らしかったのだが、残念なことに私の頭の中は“あの美しい姉さんが苦戦している”相手が“明らかに年上”の“不器用でドジ”な男という単語が竜巻を起こしていて、なんかパンク寸前だった。


さて、それからも私は騎士の任務をとかれることなく姉の送り迎えに精を出していた。のだが、ここ最近は1週間に2…いや、3度くらいか?ご命令が下らない日ができた。勿論それはそれで嬉しいのだが、なんとなく気になってしまい、こっそりと大川大学に足を運んだ。
いや、足を運ぶ途中で、姉を見つけた。例の喫茶店『フェアリー』で。なにやら話し込んでいるその姿を隠れてこっそり見ていると、丁度私が隠れている植え込みの反対側に、ひょこひょこと現れたのはよく見かけた5人組。
コソコソと何かを話していたので耳を済ませてみれば、どうやら寡黙なマスター(彼らはMr.サイレントと呼んでいたが丸わかりだ)はもう2度も姉に告白していたらしい。しかし姉(彼らはMs.パンプキンと呼んでいた)は何故かそれを2回とも断ったそうだ。
自分からモーションをかけておいて告白されたらお断りとか、我が姉ながら性格悪いと思います。絶対言えませんけど。
そんなことを考えていたら、店内から耳に馴染んだ自信満々の声が聞こえた。

「…いいわ、パンプキンパイよりももっともっと美味しいお菓子を作ることができたら、考えてあげる」

−−−−−−−ああ、なあんだ、なるほど。

「因みに私はバラの香りが大好きなんだけれど」

−−−−−−−なんだ、澄姫姉さん、貴女はもう…

姉さんの条件を聞く前にどこかへすっ飛んでいった5人組の背中を見送りながら、私は溢れ出てくる笑いを噛み殺すことだけに集中した。




その日以降、私が姉さんの送り迎えに呼び出されることはなくなった。とうとう私の役目は終わったらしい。
これから姉さんを守るのは、寡黙な騎士。
商店街で大人気のローズパイを手土産に、父と母に挨拶に来た寡黙な騎士は、今日の夕方から私の義理の兄になる。
いつもは姉と2人でいるこの家のリビングでひとり紅茶を淹れながら、姉が大好きなバラの形の角砂糖をふたつ、ティーカップに泳がせる。
ふわりと香るバラの匂いを楽しみながら、私はテーブルに無造作に置かれている結婚情報雑誌をぱらりと捲って微笑んだ。




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現パロリクエストだったので調子乗って書きました!!わかりにくいですが5人組はプロポーズを告白と勘違いしてますw
滝の前ではちょっと意地悪で横暴になる澄姫が書けて楽しかったですが、こんな感じでよろしいでしょうか?十六夜様、リクエストありがとうございました



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