その光、闇を照らす
「…で、そんなPTAみたいなこと言って帰ってきたのかお前は」
ドクタケ城に戻った風鬼は顔から出るもの全部出しながらあうあうと上司である稗田八方斎に調査結果を報告していた。
その報告を聞いた八方斎は大きな頭を抱えて唸るのみ。
「現状はわかったけどお前、あの娘の保護者かバカモノ!!」
ゴチン、と痛々しい音を響かせて風鬼の頭に落とされた拳骨に、黙ってその場にいた忍者隊の面々は首を竦める。
「だって八方斎様ぁ〜、忍術学園にいる他の生徒は全然話にならないし、先生たちも様子がおかしいってわかってるのに、そんなところにあの子を返すくらいならウチで面倒見ましょうよ〜。綺麗だし可愛いし綺麗だし可愛いから絶対優秀なくのいちになりますって〜」
グスグスと鼻を鳴らしながらも必死に抗議する風鬼に、忍者隊は揃って頷き同意を示す。
「お前ら、可愛くて綺麗であればくのいちが勤まると思っとるのか!!どうせ本当はキャワユイ女の子を傍に置いときたいだけだろが、まったく!!」
しかし八方斎はけしからん、と肩を怒らせ彼らの要求をばっさり棄却し、これからのことに思考を巡らせる。
想像以上に面倒なことになっている忍術学園…どうやらその元凶は突然現れた『平月妃』という女にある。これはもう確定。
どういう意図で学園に入り込んだかはまだ判明しないが、もし悪意を持って侵入していたとしたら、忍術学園は近いうちにどこかから攻撃を受ける可能性がある。
「…どーしたもんかなー、想像以上に面倒なことになってるなー…風鬼の報告だと薬師か幻術師っぽいけどー…こうなったらどっかの城が攻めてくる前に我々が忍術学園を攻め落とすか…?」
しかしどんどんおかしな方向へ進み始めた八方斎の思考は、窓から飛び込んできた声によって強制停止させられることとなる。
「アホか!!澄姫ちゃんを助けた時の『大人』は一体どこへ行ったんだ!!」
窓から飛び込んできたときの反動を利用してついでとばかりに大きな頭を蹴りつけた山田利吉はぷんぷんと怒りながら、情報集めてきたぞ、とぶっきらぼうに呟いた。
「じょ、冗談だよ冗談!!で、どうだった?」
「どうだか。…ここら界隈の町で『平月妃』について聞いてみたが知り合いはおろか今までの生活すら何も出てこなかった。だがダメ元で平家に行ってみたら、ご両親はしっかり澄姫ちゃんのことを覚えていたよ」
取り繕った態度の八方斎を一瞥した利吉は、じっとりと細めていた目を瞑り、静かな声でそう告げた。それに驚きの声を上げたのはドクタケ忍者隊の雨鬼。
「トウバンジャン様、おかしいですよ」
「おかしいのはお前だ!!いい加減自分の上司の名前くらい覚えんか!!」
「あ、それはわざとです。そんなことより、私が忍術学園で調べた結果、平月妃という女は平滝夜叉丸という生徒の姉だと…」
「なんだと!!!?」
「馬鹿な、滝夜叉丸くんの姉は間違いなく澄姫ちゃんだ!!」
「わざとってお前コノヤロー!!」
「そっちかよ!!ああもう、これだからドクタケ忍者は嫌いなんだ…」
雨鬼と八方斎のやりとりに頭を抱えたい衝動に駆られた利吉だが、こっそり近寄ってきた風鬼から耳打ちされた報告を聞いて眉を吊り上げる。
「…ふむふむ、伊作くんが…父上や生徒たちがおかしくなった原因はその『匂い』で間違いなさそうだ。となるとあの頭痛は何らかの前兆で、…待てよ、学園を離れたらあの頭痛は治ったな…ひょっとして、あの匂いが届かないところに行けば元に戻るんじゃ…って、何だ?」
今のところ判明している原因やらを整理して打開策を講じていた利吉は、ふと不思議そうな顔で自分を見ている風鬼に気付き首を傾げる。
「いや、あの…さっきから言ってる『頭痛』って何だ?」
「何って、お前たち学園に忍び込んだんだろう?甘い匂いがした途端激しい頭痛に襲われなかったのか?」
「襲われなかったけど…」
きょとんと目を(といってもサングラスでよく見えないが)丸くしながら答えた風鬼の一言に、利吉の眼光が鋭くなる。
「…他のドクタケ忍者もか?」
短い問い掛けに含まれていた高揚感。訳もわからないまま素直に頷いた忍者隊をくるりと見回した利吉は、薄い唇の端を吊り上げて八方斎を見た。
「八方斎。まだ推測の域を出ないが、次に打つ手が決まったぞ」
推測の域を出ないといった癖に、利吉の笑みからは自信が溢れている。
「私と澄姫ちゃんにあって、ドクタケ忍者隊にないものとはなーんだ?」
「え?えっ?せ…正義感とか?」
「違う。忍術学園との“友好関係”だ。私は教師の息子、彼女は生徒。対してドクタケ忍者隊は忍術学園とは敵対している。私と彼女は学園に近付くと頭痛があるが、ドクタケにはそれがなかった…統計的に十分とはいえないが、賭けてみる価値はあるだろう?」
にやりと笑った利吉の言葉がやっと理解できたのか、不思議そうだった表情の八方斎は悪い笑みに変わる。
「なるほど。それならばあの娘にもドクたまたちにも、話をしてやらんといかんなぁ」
「そうだな。次の一手は彼女たちのほうが長けているだろうから、ね」
そういって視線を合わせた2人は、やっと差し込んだ光に少しだけ眦を下げた。
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