意外な一面

※仙蔵と恋仲if


ふっくらとした手をとり、ぼくはとことこと廊下を走る。
ちょっと重たい体を揺すって僕の跡を懸命についてくるしんべヱと一緒になって探しているのは、いつも僕たちと遊んでくれる6年い組の立花仙蔵先輩。

「はにゃー、ここにもいないねー」

「立花先輩、どこにいるんだろうね?」

つぶらな瞳を不思議そうにくるくると彷徨わせたしんべヱは僕と一緒に覗かせていた顔を引っ込めて、漂ってきた匂いにぐぅと反応したお腹をさすって首を傾げた。

「だめだよしんべヱ、今は立花先輩を探してるの」

「わかってるよぅ」

わかってる、と言いつつも今にも食堂に飛び込みそうなしんべヱの手をぎゅっと握り、ぼくらは踵を返して、今度は6年生の長屋に向かってとことこと走り出した。





「立花先輩、遊んでくれるかなぁ?」

長屋に続く廊下を走りながら、微かな不安を滲ませてそう呟くと、後ろを走るしんべヱがちょっとだけ息を切らせて、それでも嬉しそうに大丈夫だよ、と笑った。

「絶対に遊んでくれるよ、だって立花先輩はいつだってぼくたちに優しいもん」

「…はにゃ、そうだよね。立花先輩だけじゃなくて、先輩は皆優しいもんね」

大丈夫、大丈夫。そう言い合いながら到着した六年長屋。
ちょっとだけ緊張しながら、立花先輩と潮江先輩の名札のかかった部屋の扉をこんこんと叩いた。

「立花先輩、遊びましょー」

「ましょー」

しんべヱと一緒にそう呼びかける。
いつもならすぐに扉が開いて、さらさらの髪を靡かせながら立花先輩が顔を出すんだけど、今日はしいんと扉が開く気配もない。

「…いない、のかな?」

「でも食満先輩はいるって言ってたよ?」

ぼくたちが所属する用具委員会の委員長、食満先輩。立花先輩を探し始めた時にどこにいるか聞いてみたら、確かに“食堂か作法室か長屋にいるんじゃないか?”と教えてくれた。
食満先輩がぼくたちに嘘を吐くはずがないし、でも立花先輩はお部屋から出てこないし…これはいったいどういうことなんだろう?
よくわからなくて立花先輩たちのお部屋の前でしんべヱとうんうん唸っていたら、耳にと届いた小さな笑い声。あれ?この声は…

「しんべヱ、喜三太、そんなところで唸ってないで、入ってきなさい」

「「…平澄姫先輩?」」

立花先輩のお部屋から聞こえた綺麗な声に少し驚いて、でも促されるままにゆっくりと扉を開ける。
ちょっとだけ空いた隙間から覗いてみると、そこには綺麗に笑った澄姫先輩の姿。
4年い組の平滝夜叉丸先輩のお姉さんで、珍しいくのたま最上級生の澄姫先輩が、どうして立花先輩のお部屋に?
そう思ったところで、ぼくとしんべヱは顔を見合わせて瞬きをひとつ。

にこにこと優しく微笑む澄姫先輩の柔らかそうなお膝の上に、まっすぐさらさらの綺麗な髪。
普段は鋭く細められている瞳は穏やかに閉じ、6年生の中では小柄な方でも、ぼくたちから見たらすごく大きな体はゆっくりと上下している。

「…立花先輩…」

「…寝てる、ね…」

すやすや、と安心しきって眠っている立花先輩に、ぼくとしんべヱはついまじまじとその珍しい姿を眺めてしまった。
すると、澄姫先輩がおかしそうに笑って、ゆっくりと立花先輩の頭を撫でながら囁く。

「…仙蔵、昨日丑三つ時頃に学園に忍び込んできたどこかの城の忍を明け方まで追いかけ続けていたの。でももう四半刻ほど眠ったし、そろそろ起こしましょうか?」

そう言って立花先輩の肩を揺すろうとした澄姫先輩の綺麗な手。
ぼくとしんべヱは、慌ててその手を止めてふるふると首を振った。

「はにゃー、いいです。起こさないであげてください」

「ぼくたち、また今度遊んでもらいますから、もう少し寝かせてあげてください」

「あら、いいの?6年生なんだから、もう大丈夫だと思うわよ?」

そう言って首を傾げた澄姫先輩にもう一度、いいんです、と告げて、ぼくとしんべヱはなるべく音をたてないように立ち上がった。

「立花先輩、いつもいつもしっかりしてるから」

「たまには、ゆっくり気を抜いてほしいですから」

にっこりと笑ってそう言うと、ぱちぱちと数回瞬きをした澄姫先輩はまるで花が咲くように笑って、ありがとう、とぼくたちの頭を撫でてくれた。
その手が離れた頃、ぼくは来た時のようにしんべヱの柔らかな手を掴み、今度は静かに静かに、部屋を出た。

ぱた、と小さな音を立てて閉まった扉から少し離れた所まで歩いて、しんべヱと顔を見合わせてにんまりと笑う。

「ねぇねぇしんべヱ、立花先輩、すごく幸せそうに寝てたねー」

「うん、幸せそうだったねー」

「やっぱり恋仲の澄姫先輩と一緒にいるからかな?」

「きっとそうだよ、だって、学園一有名な“びがんびみょきゃっする”だもんね」

「ちがうよ、それを言うなら“美男美女カップル”だよ」

とんでもない聞き間違いを訂正しながら、ぼくとしんべヱは手を繋いで、今度は食満先輩に遊んでもらおうと決めて、一歩踏み出した。






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「…誰か来たなら起こせと言っただろう」

「あら、仙蔵起きたの?おはよう」

「おはよう…じゃなくてだな、澄姫…」

「いいじゃない、あの子たちにからかわれるわけでもないんだから」

「…どんな顔して会えばいいのかわからんだろう…」

「どんな顔でもいいじゃない。私たちが恋仲だなんて、もう皆知ってるんだから」



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【その女、凶悪につきif】で、もしも仙蔵と恋仲だったら。普段はもう魔王と魔女の会合でしかないので、油断した一面を。
信頼しきっている人の前だと張り詰めたものが全てゆるゆるになってしまう仙蔵。この後厳禁にラブラブですねとか言われてぐわーってなってればいいwww
輝様、藍様、リクエストありがとうございました


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