ぶっ飛べ!絶壁スライダー!

「先頭グループは第三アトラクションに突入!!デカ草鞋で空を舞え!!失敗すれば奈落の底!!さあ頑張っていただきましょう!!」

すっかりテンションの上がった勘右衛門の不穏な実況を聞きながら、先頭グループの文次郎、澄姫、与四郎は大きな草鞋に乗って大きく抉られた坂をすべる。
目の前にあるのはぽっかりと口を開けた谷。
向こう岸まで届けばいいが、落ちれば恐らく、レース中の復帰は不可能だろう。

「私が有利ね!!悪く思わないで頂戴!!」

紅一点、生物委員会委員長の平澄姫はそう言って、勢いを殺さないように勢いよく坂から飛び出した。
軽い体躯を生かし華麗に空を舞い、ギリギリで対岸に手を掛けたその時、ずっしりとした重みが体にかかり驚いて振り返ると、なんと文次郎と与四郎が彼女の足にしがみついている。

「おおっとこれは酷い!!潮江文次郎選手と錫高野与四郎選手、書いて字の通り平澄姫選手の足を引っ張っている!!」

ギリギリ岸には届かなかったが、彼女の足には届いたのだろう。

「ちょ、っと、重いっ!!離しなさいよ!!」

「アホ抜かせ!!離したら落ちちまうだろうが!!」

「火薬委員会委員長代理代理として、負けるわけにゃいかねーサー!!」

ぎしぎしと、彼女の細い腕が悲鳴を上げる。このままでは3人纏めて落ちてしまう…最悪、自分を踏み台にしてどちらかが岸に這い上がるかもしれない…そう考えた澄姫はギリリと歯を食いしばり、懸命に耐えた。
だが、自分よりも体格のいい男、それも2人を支えきるにはやはり筋力が足りない。かと言って、予算を諦めるわけにはいかない。

「…長次が笑い出したら、責任取りなさいよ!!」

憎憎しげに歯を剥きそう怒鳴ると、澄姫は突然片手を離し、自身の装束の帯に手を掛けた。
しゅるり、という衣擦れの音を立てて、彼女の細腰に結ばれた帯が解かれる。

「うわーお!!何という幸運!!え、いいのこれ!?生ストリップショー!!?」

興奮した勘右衛門の声が響き渡り、追いついた後続グループも(特に小平太が)まじまじとその様子を見ている。
しかし澄姫は気にも止めず、そのまましゅるりと下がる袴。

「おまっ、何してっ…なっ、あっ、そう言うことかクソーッ!!!」

悔しそうな叫び声を上げて、彼女の足にしがみついていた文次郎が袴ごと谷へと落ちていった。なんとか残った与四郎も、ちょっと気を抜けば落ちてしまいそうな状態に、ごくりと喉を鳴らす。

「あー!!潮江文次郎選手、平澄姫選手の袴もろとも奈落の底へー!!まさに天国から地獄!!錫高野与四郎選手も辛そうだ!!だが羨ましーい!!」

ぶるぶると痺れてきた腕に限界を感じた澄姫は、もう勘右衛門の実況など気にしていられる状況ではない。

「与四郎くん」

仕方なしに、とろりと甘い声を出す。つられて上を見上げた与四郎が、次の瞬間物凄くいい笑顔でガッツポーズをして、奈落の底へと落ちていった。

「ちょろいわね」

ぺろりと装束の上着の裾、最後の砦を摘み上げていた澄姫が鼻でせせら笑い、掛けていた片腕に力を込めて、くるりと岸に上がる。
下半身が冷えるが、予算の為だ文句を言っていられない。そう自分に言い聞かせて、谷を越えた澄姫は最後のアトラクション、桶漕ぎスプラッシュに向かって走り出した。

「も、物凄く羨ましい…!!魅惑の生足を惜しげもなく晒した平澄姫選手!!そのままの格好で最後のアトラクションに走っていきます!!このまま優勝できるのでしょうか!?おおっと、後続の選手も何とか絶壁を越えた模様です!!あれ!?中在家長次選手笑っております!!不気味に笑っております!!これは嫌な予感だー!!」

必死に走る澄姫を、小平太、長次、伊作が追いかける。
想像以上に過酷なレースは、さまざまな被害者を出しつつ、クライマックスへ。


[ 147/253 ]

[*prev] [next#]