突っ込め!障子アタック!

「さて始まりました激走(中略)レース。ここからは尾浜勘右衛門がお送りいたしまーす。
まずは第一アトラクション、突っ込め障子アタック!!
かなり巧妙に偽装された鉄板入りの障子にぶつかってしまうのは一体誰か!?
大方予想はつきますが、各選手綺麗な横並びで徐々に障子に向かって行きます!!」

勢いよく走り始めた8人は、眼前に迫りくる障子を睨みつけた。
見た目は普通の障子で、どれに鉄板が入っているのかがまったくわからない。

「いけいけ」

定番の掛け声と共に頭一つ分抜け出したのは、体育委員会委員長七松小平太。躊躇いすら見せず、真っ直ぐに障子に向かっていく。

「どんどーん!!」

ばごーん、と大きな音を立てて、小平太がぶつかった障子が吹っ飛んだ。
野生の勘で当たりを引いたか、と思いきや、彼の鼻からたりりと鮮血。どうやら鉄板の入った障子を全力でぶっ飛ばしたらしい。
そのままスピードを落とさず駆け抜けて、次のアトラクションに向かっている。

「七松小平太選手早速流血!!しかし障子だろうが鉄板だろうが何人たりとも暴君の行く手を遮ることはできなァーい!!」

飛んで行った障子を横目に、想定の範囲内とでも言いたげな勘右衛門がつくしマイクを握りしめて叫ぶ。

「くそっ、負けていられるか!!」

「当たって砕けろだ!!」

そんな小平太の迫力(?)に闘志が湧いたのか、文次郎と留三郎。彼らも更に勢いをつけて障子に突っ込んだ。
は、いいものの

「ぶはっ!!」

「はべっ!!」

どうやら鉄板入りだったらしく、全力でぶつかった体勢のまま障子に張り付き、ずるずると地面に落ちた。
そんな彼らを横目で見つつ、仙蔵、長次、伊作、与四郎、そして澄姫が次々と障子に向かって突っ込む。

「おおーっと!!ここで大波乱!!」

驚きを含んだ勘右衛門の実況が響く。
それもそのはず、なんと障子アタックをクリアしたのは与四郎、澄姫、伊作の3人。不運委員会…否、保健委員会の面々が大騒ぎする中、澄姫と同じ背中からスタイルで障子に突っ込んだ仙蔵は後頭部を強打、長次は冷静に障子を蹴飛ばしたらしく、迂回して次のコースを目指している。

「仙蔵、大丈夫かしら…凄い音がしたけれど…」

「頭抱えてたダーヨ」

走りながらも心配そうに後ろを見やる2人。そんな2人に、キラキラと瞳を輝かせた伊作が見てた!?見てた!?と駆け寄る。

「僕絶対鉄板入りだと思ったのに!!顔面からぶつかってそのまま目を回して…とかだと思ってたのに、鉄板入ってなかった!!」

「見てた見てた。凄いわね伊作、幸運じゃない」

「よーし、もう不運委員会委員長とは呼ばせないぞぉ!!このまま一着になってやる!!」

澄姫の幸運、という言葉にテンションが上がったらしい伊作は、珍しく輝いた表情でぐんとスピードを上げた。それに触発されて与四郎も楽しそうにぐっと体勢を低くする。

「私も負けていられないわね!!」

そして彼女もまた、飼育小屋の破損部分の修繕に掛かる金額を思い出して、第二アトラクション目指して必死に走った。

「七松小平太選手大爆走!!その後ろを平澄姫選手、錫高野与四郎選手、善法寺伊作選手が追いかける!!少し遅れて中在家長次選手も…おーっと、鉄板入り障子にぶち当たった選手たちも迫ってきた!!大丈夫でしょうか!?」

障子を迂回したため無傷の長次が第二アトラクションに差しかかろうとしたその時、勘右衛門の実況が聞こえ振り返ると、鼻血を垂らした留三郎と文次郎、後頭部を押さえた仙蔵が必至の形相で走ってきていた。

「「「負けてたまるか!!」」」

3人の鬼気迫る怒鳴り声を聞いてちょっと引いた長次だが、彼もまた予算で新刊を購入したい。
他の委員会に比べたら些末なことかもしれないが、順位を落とさないように彼はそのコンパスを生かして走るスピードを上げた。


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