会議、ではなくレース

それは年の瀬も迫る寒い冬の日。
久々に集会で運動場に集められた忍術学園の生徒たちは、冷たくなってしまった手を擦りながら学園長の登場を待っていた。

「冬休みも近いのに、何の集会だろうね?」

「何だろうな?また突然の思い付きじゃなきゃいいけどよ」

こそこそと伊作と留三郎が話していると、生徒たちが並ぶ正面にぼふりと煙玉が投げ込まれた。
もはや定番になってしまったその登場に誰もが呆れていると、木枯らしに流された煙の中から学園長が姿を現した。

「げぇーっほげっほげほ、ごほっ!!」

むせ返るその姿を見て誰もが『年寄りの冷や水』という言葉を頭に浮かべたが、聡明な彼らは決して口には出さない。

「ごほっ、がほっ…ぼっふぉ!!あー、諸君!!今日は大事な発表があって、集まってもらった」

一旦咳払いをして呼吸を落ち着けた学園長から発せられた大事な発表という言葉に、生徒たちは首を傾げる。

「年末で色々物入りだと思って、緊急予算を用意したんじゃ」

ぴくり、と各委員会の委員長たちの耳が大きくなる。
年末年始のこの時期、掃除や片付けなどをしていると破損箇所や備品の欠品などが目に付き、どうしたもんかと日々頭を悩ませていたところだった。
各々個別に会計委員会に申請しに行っても、予算は既に配りきっているためばっさりと切り捨てられていたので、喉から手が出るほど欲しい。
各委員会の委員長がキラキラとした瞳でアレを直して、コレを買ってと考えをめぐらせているのを満足そうに見て、学園長はびしりと右手を高く掲げた。

「そこで“激走必至!!予算を掛けた委員会委員長サバイバルレース”を行う!!順位が高いほど予算も多くもらえるので、頑張るのじゃぞ!!」

張り切って宣言されたそれに、生徒たちはすっ転んだ。
結局はただの突然の思いつきかと呆れた彼らだが、各委員会委員長たちは既にバチバチと火花を散らしている。
そんな中、悲痛な声と群青の手が上がった。

「そんな、ずるいですよ!!他の委員会委員長は6年生なのに、火薬委員会だけが委員長代理5年生です!!不平等です!!」

涙を滲ませてそう言ったのは火薬委員会委員長代理の久々知兵助。彼の言い分はごもっともで、学園長もそうじゃのう、と顎に手を当てた。

「ふむ…確かに。かと言って顧問を代理にするわけにはいかんし、学級委員長委員会を助太刀させたとしてもバランスがとれんのぅ…」

そのままうんうんと悩んでこっくりこっくりと居眠りをしそうになった学園長に、ひとつの可愛い声が飛んできた。

「はーい!!じゃあ、6年生をもう一人呼んだらいいと思いまーす!!」

「うん?山村喜三太。それは無理じゃ。忍術学園にはもう6年生が…」

「はにゃ?風魔の錫高野与四郎先輩にお願いしちゃだめなんですか?」

「おお!!その手があったか!!よし、ならばさっそく呼んで来い!!」

「はぁーい!!」

喜び勇んだ学園長にそう指示され、山村喜三太は嬉々として掛けて行った。
そして、これで自分の思いつきが実現できると張り切った学園長も、満足そうに笑って煙玉を投げ、姿を消した。

「…なんか、厄介なことになったね…」

「いいや、面白そうじゃねーか!!」

困ったように眉を下げる伊作と、バキバキと指を鳴らす留三郎。
色々と思うところがあるようだが、何だかんだでやる気満々な委員長たち。
こうして、今年最後の厄介な突然の思いつき予算レースは幕を開けた。


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