恋文饅頭

※完全パラレル、年齢操作注意
(成長いろは視点)



おめでとう、おめでとうと大喝采の拍手の中、私は真っ白な装束に身を包み微笑む。
育ての親である滝兄様は、式が始まる前から…というより、昨日から泣いてばかり。おめめがうさぎさんです。
両親不在、参列者はほぼ友人というこの奇妙な祝言。
それでも、私はとても幸せです。

「いろはちゃん、綺麗になって…澄姫先輩の祝言の時とそっくりだよ…」

涙を滲ませながら、伊作くんがそっと私の手を取る。その隣で、仙蔵くんも綺麗に笑っていた。

「長次と澄姫に、見せてやりたかったなぁ」

そう呟いたのは小平太くん。いつかの戦で失ったと言う右目を押さえて、空を仰ぐ。
つられて私も、眩しいほどに真っ青な空を仰いだ。

私の両親は、近畿地方にあるという有名な学園に通っていた。そこを卒業した2人はとても優秀な忍者だと聞いている。しかし私が小さい頃に起こった戦で、私を守る為に命を落とした。
その時一緒にいた小平太くんが、右目だけではなく全身から夥しい量の血を流して、両親の亡骸を運んできてくれたことは、実はおぼろげながらも覚えている。
それからは母様の5つ下の弟、滝兄様が私の父で、母だった。
小さな私を一人で育てるのはとても大変だったと思うけれど、兄様はいつもいつも優しく笑っていた。
両親の友人である小平太くんと仙蔵くんは、頻繁に私たちの様子を見に来て色々と気に掛けてくれた。
忙しいはずの文次郎くん、留三郎くん、伊作くんも、時間を作っては遊びに来てくれた。
父様が卒業する年に後輩となった雷蔵兄様や、その友人の三郎兄様、勘右衛門くん、兵助くんも、母様の後輩であるハチくん、孫兵兄様、そして、滝兄様の友人の喜八郎くん、タカ丸さん、三木くん、守一郎くん…両親が通っていたという学園のたくさんの人が、遊びに来てくれた。

そして、私の隣に座る彼も、両親と同じ学園の卒業生。彼のたくさんの友人たちも、直接両親とは関わりがないものの、各々先輩に連れられたりして知り合いになり、暇を見つけてはちょくちょく、私たちの家を訪れてくれた。

「……?………どうかしたか?」

じぃっと隣の紋付袴を見つめていたら、優しく声を掛けられた。
普段はちょっと猫目なのに、私を見る時はとても優しげに細められる。
昔から変わらない、笑うとチラッと覗く八重歯。
七つも年上の、私の、旦那様。

「なんでもない。幸せだなぁと思っただけだよ、きぃくん」

にこにこと笑いながらそう言うと、懐かしい呼び方だなぁと笑われた。

「…そういえば、なんで二十五にならなきゃ祝言挙げないって言ってたの?」

「だって土井先生が二十五まで未婚だったし」

「あはは。そう言えばそうだね。今日は土井先生来られなくて残念だねー…」

完全に宴会モードに切り替わった祝言の場で、ずうっと気になっていたことを聞いてみたら、実に彼らしい答えが返ってきた。

「仕事だってんだからしょうがないって…来たら来たで号泣して収拾つかなくなりそうだし……しかし、こんな長い間待たせたのに、よく俺と祝言挙げる気になったな?」

「だって、待ってろっていったのはきり丸くんじゃない。ほら」

照れたように笑う彼に、片時も肌身離さず持っていた紙をぴらりと見せる。
彼はそれを見て、とても驚いた顔をした。

「それ…子供の頃の俺の字だ…でも、そんなのいつ書いたっけ?」

「えへへー、ないしょ!!」

掌で隠してしまえるくらいの、小さな小さな文。
そこには幼い字で、こう書いてあった。


“嫁に貰ってやるから、待ってろ”


小さなお饅頭に隠されていた恋文。
それは幾多の年月を越え、ひょっとしたら、時空すら越えたのかもしれない。

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