始末におえない

※性転換注意




何てことをしてくれたんだ、と珍しく声を荒げさせて怒鳴り散らすのはサラサラストレートが自慢の燃える戦国作法、立花仙蔵。
だがしかし、普段の彼とはどこかが、何かが違う。
怒鳴られたのは、厄介ごとはもう慣れっこ、不運に愛された善法寺伊作。
だがしかし、彼もまた普段とはどこかが違い、めそめそと泣きながら必死にごめんなさい、ごめんなさいと謝っている。

「何だこのカオスな光景…」

私の小さな呟きに、友人たちは揃って頷く。
この混沌の世界が始まったのは、どうやら数刻前。学級委員長委員会会議と称してダラダラと菓子を貪っていた私と勘右衛門のところに、物凄く慌てた雷蔵とかなり取り乱した八左ヱ門が転がり込んできて、そのままあっという間に医務室に連れて行かれた。途中バッタリ出くわした兵助も、私たちと同じように浚われた。
唖然として佇む私たちに、おう、と暢気に片手を上げて見せるのは、5年生には鬼門の暴君、七松小平太…のはずなのだが、彼は普段よりもなんだか、心なしか、華奢。

「い、一体何があったのですか?」

「え?うん、いさっくんの薬皆でかぶってな」

そこまで聞いて、辻褄があう。どうせまた善法寺先輩のややこしい薬品の所為でややこしいことになったのだろう。その結果が、これか。

「なるほど、もうわかりました。で、元には戻れるのですか?」

「うん、それは知らん!!いさっくん泣いてばっかだし!!」

にかりと、もうそれは真夏の太陽かと言うくらいに眩しい笑みで、七松先輩はからからと笑う。肝心なところがまったくわからないが、突っ込む気にもならない。
腹を決めて、5年生総員で何とかその場を落ち着け、怒り狂う立花先輩を宥めつつ話を聞いて、今後のことを相談する運びとなった、の、だが。

「うわぁぁぁん!!俺の理想郷がぁぁぁ!!澄姫先輩のわがままボディがぁぁ!!」

「勘右衛門煩い!!代わりに他の先輩たちが理想郷だろう!!そっちで我慢しろ!!」

「元を知ってるんだから無理!!男なんでヤダァァァ!!!」

ワンワンと泣き叫ぶ勘右衛門の所為で、地獄絵図。気持ちはわかるけど…。
とにかく、現状をわかりやすく説明すると、善法寺先輩の薬(元来は新型のもっぱん予定だった)の副作用?の所為で、6年生の6人はそれぞれ女性に、そして、くノ一教室唯一の6年生、澄姫先輩は、なんと男になってしまった、らしい。
らしいと言うか、にわかには信じられないんだけれども、でも目の前の光景を見てしまったからには信じるしかない。
さすがにこれには常に冷静な兵助も、結構大らかな雷蔵も慌てふためいている。

「ぐすっ…効果的には元もっぱんだし、多分半日くらいで元に戻ると思うんだけど…」

「戻ると“思う”だと!?ふざけるな!!少なくとも半日はこの状態で過ごせと言うことだろう!?」

「ふっ、ふぇぇん!!ごめんなさぁい!!」

何とか宥めて善法寺先輩に効能時間を問い質したところ、それを聞いて再度激昂したのはやっぱり立花先輩で。
もともと綺麗な顔立ちをしている立花先輩は女になってもやっぱり美人で、その美貌の迫力たるや澄姫先輩にも勝るとも劣らない…そんな迫力の美人に怒鳴られ、女になって更に意志薄弱になった善法寺先輩は泣いてばかり。
どうしたもんかと頭を抱えたその時、今までずっと黙っていた澄姫先輩が突然立花先輩の腕を掴んだ。

「仙蔵、もうその辺でやめてあげて。いくらなんでも伊作が可哀想だから」

「澄姫…すまん、ついカッとなって…伊作、すまない…」

「ぐすん…僕こそごめんね、いつもいつも失敗して迷惑ばっかりかけて…」

まるで鶴の一声。すっかり落ち着いて丸く収まりかけているその場面を見て、しかし、なんだかこう、ざわざわする。
ハチに至ってはもう乾いた笑いしか出てこないくらい取り乱している。

「ハチ、大丈夫?」

「ははは、大丈夫大丈夫。これから越冬に向けてカメムシ越冬隊を茹でないといけないから、俺もう行くな?」

「全然大丈夫じゃない!!落ち着いてハチ!!カメムシ茹でたらすごい臭いだよ!!」

気遣う雷蔵が宥めるも、そう言う問題じゃないだろうと脳内の冷静な私が突っ込む。だめだ、私たちもかなりキてる。
まだ落ち着いている潮江先輩(お局系美人)と食満先輩(溌剌系美人)、普段とあまり変わらない七松先輩(活発可愛い系)はいいとして、善法寺先輩(守ってあげたくなる系ロリ)と立花先輩(スレンダー美女)はなんというか、結構、百合百合しい雰囲気になっちゃってるし、頼りの澄姫先輩(完全美形)はもう飽きたのか、それとも何かおかしくなったのか、たがが外れたように中在家先輩(知的美人)を口説きに口説いて襲おうとしてるし、勘右衛門は相変わらず理想郷理想郷と煩く泣き喚いているし、トチ狂ったハチは雷蔵に止められつつも訳のわからないことを口走っているし、兵助に至っては許容量を越えたのかおやつの高野豆腐を貪り食ってるし…ああもう!!

「誰か何とかしてくれ…」
 


結局その日の夜には元通りになったのだけれど、私たち5年生は暫く6年生に対してよそよそしくなってしまった。仕方ないと思うんだが、なあ?
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色々とはしょってしまいましたが、混沌な空気が出ていれば嬉しいです…orz
杏里様、リクエストありがとうございました



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