その女、幼女になり

※年齢操作注意



それは、伊作と医務室にて薬品の調合をしていた時の事故。

「あぶないっ!!」

その叫び声が聞こえた時、既に私の意識は黒く塗り潰されていた。






「ふ?」

自分の発する声で目が覚めた。
見回すと、医務室。しかし、なんだか違和感が拭い去れない。

「なに…?」

見下ろす自分の体が、普段と全然違う。
ぷにぷにとした小さな手、足、いつもよりも高い声、低い目線。慌てて立ち上がって、着慣れているはずの装束を踏んでひっくり返る。
強かに打ちつけた額が痛くて、じわりと涙さえ滲んでくる。

「……ふぇぇ…」

「澄姫…!!」

私の泣き声を聞いて一番に駆けつけたのは、恋仲である長次だった。
すぐさま抱きかかえられ、打ちつけた額を撫でる優しい掌。

「ちょーじぃ…」

そう言って縋りつく愛おしい掌も、普段よりも大きい感じがして、訳のわからないまま涙が零れる。
すると、長次の後ろからひょこりと伊作が顔を覗かせた。彼は物凄く申し訳なさそうな顔をして、現状を説明してくれた。
どうやら私は先の事故でかぶった薬品の効能で年齢が十ほど若返っており(予期せぬ副作用、らしい)記憶はあるものの、精神的にも幼くなっているとのこと。

「本当にごめん、試作品とはいえ、まさかこんなことになるなんて…」

深く深く頭を下げる伊作が本当に、こちらが恐縮してしまうほど落ち込んでいるので、私と長次は顔を見合わせて、とりあえず今後のことを考えようとその場を落ち着けた。


と言うことで、今、私は6年生の面々に囲まれている。
説明は終えているので、皆揃って『あー、またか』と言った表情。

「まだ試作段階だからなんともいえないけど、恐らく薬品の量からして今日の夜か、明日の朝には元に戻れると思う。だから、それまでは僕が責任持って澄姫の面倒を見るよ!!」

「よせ、更なる不運の連鎖を起こす気か」

瞳に炎を燃やしてそう言い切った伊作を、仙蔵が窘める。
歯に布着せぬ仙蔵の一言にしゅんと頭を垂れた伊作を見て気の毒になったと同時に、十五になってまで他人に面倒を見られるのは恥ずかしいと言う気持ちがむくむくと湧いてくる。

「へいきよ、わたし、じぶんのことはじぶんでできるから」

その気持ちに従ってそう言うと、ちゃんと喋ったつもりなのにどこかたどたどしい。嗚呼、もどかしいことこの上ないわ。
早く元に戻りたい、と内心溜息を吐いていると、ひょいと誰かに抱えられた。
てっきり長次かと思って振り返ると、そこには満面の笑みの危険人物。

「やー、可愛いな!!大人ぶってるところが尚可愛い!!澄姫にもこんな可愛い時代があったのか!!」

「っやめて!!おろしてよ!!へんしつしゃ!!ゆーかいま!!」

「おーおー、傷付くこと言ってくれるけど、いつもの迫力がない分可愛いもんだ!!」

そう笑って、私の小さくなった体は留三郎にひょいひょいと振り回される。
慌てて止めに入った伊作に、たまにはいいじゃんか、と意味のわからないことを言って全然降ろしてくれないので、振り回され続けた私の体に辛うじて巻きつけられていた装束が遂にずるりと床に落ちた。

「や、や、や、いや、いやいや!!はなして!!おろしてったらぁ!!」

たかが五歳児、と言ってしまえばそうかもしれないが、意識はしっかりと十五。しかも慣れ親しんだ友人たちの、恋仲の目の前ですっぽんぽんとなれば、お年頃の乙女には衝撃的。
どれだけ言っても聞いてくれない留三郎に腹が立つやら悲しいやらで我慢できなくなり、私の目にじわりと涙が浮かぶ。

「おい、留三郎、いい加減降ろしてやれ。澄姫泣いてるぞ」

その時止めに入ってきたのは、私にとってとても意外な人物で、浮かんだ涙が引っ込んだ。

「こへーた…」

「いや、すまんすまん。可愛くてつい…」

眉を下げそう謝りながら、留三郎は私を床に降ろした。失礼かもしれないが、本当に心底意外で、私はきょとりと小平太を見つめる。
するとその視線に気がついた小平太は、ん?と首を傾げて私に視線を合わせるようにしゃがんでくれた。

「あ、ありがと…こへーた…」

「ん?気にするな!!お礼は元に戻ってから体で」

「あ、てっかい。かんしゃてっかいするわ」

折角人が感謝してるのに、やっぱり暴君は暴君だった。
その光景を見ていた仙蔵が留三郎と小平太を危険人物認定し、伊作と長次に決して目を離すなよ、と念を押し、2人は私が元に戻るまでの間隔離されることが決定した。


翌日の朝、すっかり元通りになった私を見て残念がる留三郎と何故かギラギラしだした小平太に、伊作と長次が再度お灸を据えているのを見たが、見なかったことにした。

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予期せぬ事故には気をつけましょうw
水無月様、リクエストありがとうございました



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