ぼくとお団子と時々、先輩

ぼくの、ううん、ぼくらの自慢の先輩。そう言われて一番に思い浮かぶのはやっぱり、ぼくらが通う忍術学園の中でも、最もプロに近い実力を持っているといわれる六年生。
その中でも、ぼくの所属する用具委員会の委員長、食満留三郎先輩は、ちょっと目つきは悪くて熱血漢だけど、ぼくたちにはとっても優しい。
ぼくの友達、乱太郎が所属する委員会の委員長善法寺伊作先輩も、いつもニコニコしていてとっても優しそう。
兵太夫のところの作法委員会委員長立花仙蔵先輩もよくぼくと喜三太に構ってくれるし、伊助の火薬委員会の委員長代理の久々知兵助先輩の作るお豆腐はすっごくおいしくて、ぼく大好き!!
正直、忍術学園の先輩たちは学年が近いとちょっと意地悪なところもあるけど、みんなみんな優しくて、すごくいい先輩だと思う。
だけど、ぼくは、実は…

「中在家長次先輩と平澄姫先輩が怖いィ?」

「…うん……」

素っ頓狂なきり丸の声が、忍たま一年長屋に響き渡る。
なんだなんだと顔を覗かせる級友たちをちらりと見て、ぼくは小さく頷いた。
そんなぼくを見て、乱太郎ときり丸は顔を見合わせて同じようなタイミングで頬を掻く。

「…しんべヱ、確かに中在家先輩は顔は怖い。それは認めるし、おれもそう思う。だけど、すっごくすっごく優しいんだぜ?アルバイト手伝ってくれたりとか、ほら、前の学園長先生の厄介な思いつきで行われたレースとかでも、おれに半年分の学費免除譲ってくれたりとか!!」

「そうだよしんべヱ、それに、中在家先輩の作るボーロはすごくおいしいって前喜んでたじゃない」

「それは、そうなんだけど…」

きり丸と乱太郎にそう力説されて、ぼくはしゅんと項垂れる。ちょっと前に、きり丸からおすそ分けしてもらった中在家先輩作のボーロは確かにおいしかった、ん、だけど…

「…あんまり関わる機会が多くないし、やっぱり…」

ちょっと、苦手。そう小さく呟くと、いつの間にか勢揃いしていた1年は組のみんなはうーん、と何かを考え始めた。
そして、きり丸と虎若がほぼ同時に、ポン、と掌を打つ。

「よし、わかった!!それなら一緒に出掛けてみればいいんだ!!」

そう言ってにっこり笑ったきり丸と虎若、そして1年は組のみんながわっと部屋を飛び出していった。





「親睦会、ねぇ…」

とことこと町を歩きながら、隣を歩いていた澄姫先輩が小さく呟いて笑った。
姉弟揃ってちょっと自惚れ屋さんだけど、とっても綺麗で優しい先輩だから、しんべヱも絶対好きになるよ、と笑った虎若と三治郎の言う通り、1年は組で一番動くのが遅いぼくに合わせてゆっくりと並んで歩いてくれる澄姫先輩。
町ゆく人がみんな振り返る美人で、4年い組の滝夜叉丸先輩のお姉さん。
しゃべってみると全然怖くないし、すごく優しい。

「ま、確かにここまで歳が離れていると、接する機会がなければ畏怖してしまうかもしれないわね」

「いふ?」

「怖いと思うかもしれない、ってことよ」

そう言ってにっこり笑った澄姫先輩は、ぼくが思っていることをぴたりと言い当てた。
ひょっとして失礼なことを思っていたのかな、なんてちょっと悲しくなってしまったけど、澄姫先輩にくいくいと手を引かれてぼくは顔を上げた。

「ねえ見てしんべヱくん、おいしそうなお団子屋さんが出ているわ」

「え!?お団子!?」

そう言われてぱっと正面を見ると、そこには確かにお団子屋さん。香ばしい醤油の匂いが漂ってきて、思わずよだれが溢れちゃう。
そんなぼくを見た澄姫先輩は、ちょっと待ってて、と言ってぼくの手を離して、少し前を歩いていた中在家先輩に駆け寄って何かを話し掛けた。
ぼくたちに向ける笑顔とはちょっと違う、どう表現したらいいのかぼくにはわからないけれど、とにかくすごく嬉しそうな澄姫先輩。
そんな澄姫先輩のお話を聞いて頷く中在家先輩も、きり丸と話をしている時とは全然違う、穏やかな、幸せそうな顔で。
ぼくは先輩たちを誤解していたんだなぁ、と反省したと同時に、こんな楽しいお出掛けを計画してくれた1年は組のみんながもっともっと大好きになった。

中在家先輩とお話を終えた澄姫先輩はとことことお団子屋さんに向かい、店番のお兄さんに身振り手振りを加えて何かを話していた。
すると、店番のお兄さんはとっても嬉しそうに何度か頷いて、澄姫先輩に山盛りのお団子を渡した。
嬉しそうに笑ってお団子を受け取り、ぼくたちのほうへ戻ってきた澄姫先輩は、中在家先輩にお団子を半分渡してから、わいわいと土手で遊んでいた乱太郎たちを呼び戻して、抱えたお団子を配りはじめた。

「……しんべヱ…」

そんな澄姫先輩をじぃっと見ていたら、いつの間に隣に立っていたのか中在家先輩がみたらし団子をぼくの目の前に差し出してくれた。

「わぁーい!!ありがとうございます!!」

おいしそうな醤油の匂いにつられて笑顔でそれを受け取ると、中在家先輩は一瞬だけ普段の喜んでる時とも違う、怒ってる時とも違う、とっても優しい笑顔でぼくに微笑みかけてくれた。
その笑顔でぼくはどれほど先輩たちに可愛がられているかをようやく察して、過去の鈍いぼくを叱りたい気持ちになった。
そんなぼくの気持ちをまるでわかっているかのように、手招きしてぽくを呼ぶ乱太郎ときり丸。
そんな2人の優しい親友に駆け寄って行って、一緒にお団子を頬張りながらふと振り返ると、土手の上に置かれていた長椅子に腰掛けた2人の先輩が、とっても仲良さげに寄り添いながらぼくたちを見ていた。

「な?中在家先輩、すっごく優しいだろ?」

「澄姫先輩も、綺麗で優しいよね?」

ぼくと同じように口の周りをみたらし団子の醤油でべとべとにしながら、きり丸と乱太郎が嬉しそうに笑って言った言葉に、ぼくも同じように嬉しそうに頷いた。


−−−−−−−−−−−−−−−
初めてのしんべヱ目線ですが、ほのぼのにはこの子が一番の適役かと思いました。山田先生や土井先生の愛情とは違う、先輩からの愛情を少しでも感じていただければ幸いです。
ミヤ様、リクエストありがとうございました




[ 87/253 ]

[*prev] [next#]