情報整理

約一刻後、情報収集を終え文次郎たちと合流した仙蔵ら。
総じて人当たりの良い5人は、城下町の人々から驚くべき情報を手に入れていた。

「…まさかドクササコが財政難だったとはな」

頬杖をつきながら、文次郎がぼそりと零す。
かねてから戦好きと名高いドクササコだが、ここのところ続いた戦がすべてずるずると長引き、蓄えが底を尽きそうだ、と町人たちは口をそろえて言う。
はたから見ればとても裕福そうな城下町からは想像も出来なかったので、伊作は勘右衛門と共に薬売りに扮し城下町から少し離れた田畑へと足を伸ばしてみた。
すると、そこで驚くべき状況と、おかしな話を目の当たりにする。

「僕と尾浜で町のはずれを見に行ってみたら、田畑は荒れ果て、水路は枯れ、食料も満足に確保できていない様子だったよ」

「それに、恐らく以前の戦から戻った人だと思いますが、怪我の手当ても満足にされないままでした」

伊作と勘右衛門の報告に、仙蔵は頷きつつ文次郎に向き直った。

「まだ城下町までは及んでいないが、貧困は確実に侵食している。間違いなく戦の影響だ…そして、その戦が長引いている原因と言うのが…」

そう言うと、仙蔵は厳しく吊りあがった瞳をちらりと動かした。
その視線の先には、髪結いの格好をした斉藤タカ丸。彼はごくりと喉を鳴らして、おずおずと手を上げて話し始めた。

「あの、僕は不破くんと一緒に町の大通りで髪結いの露店を出していたんだけど、全然お客さんが来なかったんだ…だから先着10名様はタダですよって客寄せしてたんだけどね、そこで町の人たちほぼ全員が、新しく雇われたらしい家臣の文句ばっかり言ってたんだ」

「家臣の文句?」

タカ丸の話を聞いて、訝しげに眉を顰めながら文次郎が繰り返すと、黙ってお茶を啜っていた雷蔵がふと、その丸い瞳を珍しく細めた。

「噂の陰陽師、だと思います」

小さく呟かれた雷蔵の言葉に、その場にいた全員が体を強張らせた。
ただ1人、何かを察した様子の仙蔵が顎をしゃくって続きを促すと、雷蔵はゆっくりとした動作で机に湯飲みを置いた。

「町人たちは揃ってこう言いました。殿様のお気に入りの家臣が占いに精通しているらしいが、全然当たらない。簡単に勝てると言われ戦になったが、いずれも長引いている。しかし殿様はしばしの辛抱だと言って我々の言葉に耳も貸さない…何か引っかかりませんか?」

ボソボソと喋っていた雷蔵の、最後の一文。まるで問い掛けるようなその一言に、伊作と勘右衛門が首を傾げ、文次郎と兵助ははっとしたように顔を上げた。

「ドクササコの城主とその陰陽師の目的は、別か」

「はい、恐らくドクササコの城主は、その陰陽師に唆されているんだと思います」

文次郎の言葉にしっかりと頷いた雷蔵。
それらのやりとりを黙って見ていた昆奈門が、小さく笑った。

「いやー、すごいすごい。さすがに優秀だねぇ」

あまりにも胡散臭すぎるその言葉に、全員がじとりと彼を睨んだが、やはりこれといって気にした様子も見せず、昆奈門はふふんと鼻で笑い、のっそりと腕を組んだ。

「じゃあ次、私の番ね。陰陽師の情報はきっと君たちじゃ入手できないと思って事前に調べておいたよ。性別は男、名前は荒巻剛三。雇われたのは驚くべきことにいろはちゃんが学園で保護されてすぐ。彼は“神の咆哮と共に現れた天女を手にすれば数多の富を手に出来る”と言い城主に取り入った」

ずず、と次さんの水筒から珍しくお茶を啜りながら、彼は右目を細めて言った。
ところどころに無意識かもしれないが棘を含みつつも、かなり有益な情報に三郎が露骨に眉を顰める。

「…以前澄姫先輩から聞かされたいろはに関する嫌な噂は、その男が発信源か。ドクササコ城主の目的は“数多の富をもたらしてくれる天女”で間違いないだろうが…」

「その荒巻剛三という男の目的は図りかねるな。だが、間違いなく目的への途中経過として長い戦をする必要性があるのだろう…これで必要な情報は大方出揃った。文次郎、お前はこの情報を本隊へ伝えて、その後田村の援護へ向かえ」

「おう」

三郎の言葉に続き、仙蔵が内容を纏め上げ、文次郎に指示を出した。
短く了承の返事を示した文次郎はがたりと立ち上がり、足早に茶店を出る。
そこまでのやりとりを全て矢羽音で済ませていた面々は、計画実行までの数刻を先程までの談笑を続けつつ、団子を摘みながら過ごすことにした。

「そうだ、タカ丸さん。学園に帰ったらちょっと矢羽音の練習しましょうか」

「えぇぇ!?僕すごく頑張ったのに…」

「勿論それはわかっていますけど、これから機会も増えると思いますし、ついでですから覚えてるうちに」

「兵助は相変わらず真面目だねぇ。タカ丸さん、頑張って」

兵助と勘右衛門が揃ってぽんぽんとしょぼくれたタカ丸の肩を叩く。
陰陽師の情報以外は黙って様子を見ていた昆奈門は、うんうんと満足げに腕を組みにやりと笑う。

「やっぱり、子供は可能性だねぇ…」

彼らには決して聞こえないように、そう呟いた。


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