くのいち
作法委員会活動の作法室で暫く待っていると、がらりと扉が開いて上機嫌の兵太夫、泥だらけの喜八郎、その後ろにいろはを抱いて引き攣った笑いを浮かべている仙蔵が現れた。
「かーさまー、ただいまー!!」
「おかえり、どうだった?」
「んふー!!しゅごかったー!!かっくいーのー!!」
とててて、と澄姫に駆け寄ったいろはが興奮気味に話す後ろで、仙蔵が額に青筋を立てて笑顔で喜八郎と兵太夫を睨んでいる。彼女はいろはを抱き上げて、兵太夫の頭を撫で、泥に汚れている喜八郎の頬を擦った。
「2人とも、ありがとう。また遊んでやって頂戴ね」
その言葉に、兵太夫も喜八郎もしっかりと頷いた。
そして、彼女はいろはを見る。
途中ら仙蔵が抱いていたと思われるが、いろはの桃色の装束はあちこちが汚れていた。
「いろは、ご飯の前にお風呂に入りましょうか?」
「はぁーい!!」
上機嫌のままに返事をしたいろはを抱いて、彼女は作法委員会の面々にお礼を言ってくノ一長屋に向かった。
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留三郎から渡されていたいろはの着替えを持ち、くノ一長屋にある風呂場に向かう途中、廊下からきゃいきゃいと楽しそうな声が澄姫の耳に届いた。
ひょこりと顔を覗かせると、そこには同じく風呂場に向かうくノ一下級生、ユキちゃんとトモミちゃんの姿。
「貴女たちもこれからお風呂?」
「澄姫先輩!!と、あ!!噂のいろはちゃんですか!?」
彼女が声を掛けると、振り向いた2人。彼女たちはいろはに気付き、とことこと駆け寄ってきた。
「よければご一緒してもいいかしら?」
「「大歓迎でーす!!」」
声を揃えて嬉しそうに頷いた彼女たちと共に、澄姫は風呂場へ向かった。
洗い場でいろはの顔や体についた泥やら埃を流してやり、綺麗に体を洗ってやった澄姫は、先に体を流して湯船に浸かっていたユキちゃんとトモミちゃんにいろはを頼み、自身も今日1日の汗を流していた。
「いろはちゃん、見て見て、ぶくぶく〜!!」
「きゃはー!!ともみちゃ、もっかいー!!」
可愛い花柄の手拭でいろはとトモミちゃんが遊んでいるのを見て、ユキちゃんは湯船の縁に顎を乗せて、じっと澄姫を見る。
「…相変わらず、恐ろしいプロポーションですね澄姫先輩…」
「あら、ありがとユキちゃん」
「はぁぁ、羨ましい…ところで、いろはちゃんの着物って6年生の食満留三郎先輩の手作りって聞いたんですけど、本当ですか?」
羨望の眼差しで彼女を見ていたユキちゃんだったが、首を傾げて問い掛けてきた。
「え?あぁ、本当よ。くノ一教室下級生の装束を改造してるだけみたいだけれど、本当、器用よね」
洗った長い髪をくるくると纏めて手拭で覆い、ちゃぷ、と足先を湯船につけた澄姫に、ユキちゃんがけらけらと笑う。
「食満先輩って確かに器用だけど、絶対ケマトメ印入れるって聞いてますよ」
「ケマトメ印?あ、ひょっとして用具委員会のアヒルボートの船首飾りのあれ?そうなのよ、今日だっていろはのお子様ランチにね…」
浴室できゃいきゃいと話に花が咲く。
暫く夢中になって話していると、いろはが熱いとごねだしたので、4人は風呂から上がることにした。
脱衣所でいろはに服を着せていると、トモミちゃんに何かを囁かれたユキちゃんがそうね、と楽しそうに頷いてから澄姫を呼んだ。
「澄姫先輩、私のお下がりで申し訳ないんですけど、もしよろしければ、いろはちゃんに数着着物をあげてもいいですか?」
「え、でも、そんな…いいの?」
「いーんですよ!!私着物いーっぱい持ってますし、もういらないって言っても家からどんどん届くんです!!」
「私たちも、たまにユキちゃんから借りたり貰ったりしてますし」
女の子なんだからおしゃれさせてあげてください、と2人から言われてしまい、澄姫は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。よかったわね、ユキちゃんいろはにお着物くれるんですって」
にっこりと笑っていろはにそう言うと、いろはは恐らく良くはわかっていないが、にっぱぁ、と笑ってぺこりと頭を下げた。
「ゆきちゃ、あーとぅ!!ともみちゃ、あーとぅ!!」
その姿を見た2人は口元を押さえ、瞳を潤ませながら頬を染め、脱衣所で“可愛い!!”と悶え始めた。
着物は夕食の前にでも先輩の部屋にお届けしておきますから、とユキちゃんに言われ、もう一度お礼を述べた澄姫はほかほかのいろはを抱いて食堂へ向かった。
夕食もこれまた気合の入ったおばちゃん特製のお子様ランチに大喜びしたいろは。昼食時と同じように席を確保していた6年生たちは既に誰がいろはの面倒を見るか(戦って)決めていたようで、その勝者である留三郎がでっれでれになりながらいろはに夕食を食べさせご満悦していた。
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