挨拶回り〜生物委員会〜

澄姫がいろはを抱いて飼育小屋に行くと、そこには既に生物委員会の面々が揃っていた。

「あー!!はっちゃーん!!」

「おほー!!?」

いろはは八左ヱ門を見つけるなり、彼のボッサボサの髪をぐいと引っ張った。じたばたと暴れるいろはを下ろしてやると、一目散に八左ヱ門の足に飛びつく。

「元気だなー!!俺のこともう澄姫先輩から聞いたのか?」

いろはを抱き上げて八左ヱ門がそう聞くと、いろははにこにこと頷いた。だが、澄姫は首を横に振って否定を示す。

「そ…っか、よし、まずは生物委員会のみんなと遊ぼうな!!」

「わぁーい!!」

八左ヱ門がそう言って、喜ぶいろはを下ろす。すると、その周りに井桁が4人集まって、順番に自己紹介を始めた。
お兄さんぶっているその姿に、八左ヱ門の顔が綻ぶ。
そんな彼は、井桁の後ろでぼうっと佇む萌黄に気が付いた。

「そんなとこで何やってんだ?こっち来てお前も自己紹介しろよ」

「いえ、僕はいいです」

手招きする八左ヱ門に、孫兵は俯いて首に巻きつくジュンコをそっと撫でた。その姿を見た澄姫が、いろはの名を呼ぶ。
上機嫌でとっとこ寄ってきたいろはの肩を掴んでくるりと孫兵のほうに向かせ、あらー、とわざとらしく声を出す。

「いろは、いろは。あそこにいるの、だあれ?」

すると、きょとんとしていたいろはがにっぱぁぁぁ、と笑い、両手を広げて孫兵のほうに駆け出した。

「あー!!まごへにぃにぃ!!じゅんこちゃー!!」

「っ駆け寄ったら駄目だ!!ジュンコが!!」

噛み付く、と言う言葉を言い切る前に、孫兵の首に巻きついているジュンコが鎌首を擡げた。カパリと大きく口を開けるジュンコの姿に井桁たちが思わず叫ぶが、いろはは構わず孫兵に向かって突進した。
ぎゅうと抱きつくいろはを、ジュンコが噛む前に何とか引き剥がそうとした孫兵は、次の瞬間唖然とする。

「やー!!じゅんこちゃつめたーい!!きゃー!!」

孫兵の首に巻きつき鎌首を擡げていたジュンコは、まるで暖をとるかのようにいろはの体全体にゆるりと巻き付き、小さな頭をすりすりといろはの頬に擦り付けていた。

「なん、で…」

「それはね、あの子が私の娘だからよ」

「娘って…未来からどうとかって言う?そんな、まさか…」

「冗談でしょうって?いいえ、もう確信が持てたわ。だってあの子、ハチも孫兵も自己紹介前に名前を呼んだでしょう?私は生物委員会のこと、一言もあの子に話していないもの。あり得ないけれど、それが一番筋が通るのよ」

ぽかんとしている孫兵に、澄姫はそう話した。いろはは確かに、この学園の何人かを一方的に知っている。それは長次と仲がよかったり、彼女と仲がよかったりする人物が圧倒的で。
未来から来たなんて、確かに夢物語だと思うが、それでも冷静に考えて今のところ一番筋が通る。

「だから孫兵、あの子は大丈夫よ」

じっと孫兵を見つめて彼女がそう言うと、孫兵はコクリと頷いて、ジュンコと戯れるいろはに近付き目線を合わせた。

「いろはちゃん、ジュンコ、好き?」

じっと、澄んだ目でいろはを見つめる孫兵。そんな彼に、いろははにっこりと笑って大きく頷いた。

「すきー!!だってね、じゅんこちゃ、まごへにぃにぃのだいじなの!!いっちゃんね、まごへにぃにぃすきだからね、じゅんこちゃもね、きみちゃもね、おーやまきょーだいもみんなすきー!!」

「……そっ、か」

にこにこと身振り手振りで話すいろはに、孫兵は珍しく、心底嬉しそうに笑った。それを見た八左ヱ門が、いいなあ、と呟く。

「どうしたのハチ、そんな声で…」

「いやぁ、だって…孫兵のやつ“まごへにぃにぃ”なんて呼ばれて…なんで俺は“はっちゃん”なんですか?」

「…私がハチって呼ぶから、かしら?」

「…ですよねー」

「なに?何か言いたそうね?」

「めめめ滅相もございません!!」

羨ましげにぶちぶち文句を零す八左ヱ門を冷たい瞳で見ると、彼は盛大にキョドってぶんぶんと首を振った。
その姿を見て冗談よ、と笑った彼女がいろはを呼んだ。

「いろは、こっちに来て栗と桃にもご挨拶なさい」

「きゃはー!!くーちゃんとももちゃ、あそぶー!!」

そう言って元気良く山犬小屋に飛び込み、低い唸り声を上げて威嚇している栗と桃の耳と尻尾を小さな手でひょいと掴みあっという間に降伏させたいろはを見て、井桁4人が声を揃えて「さすが…」と呟いた。

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