赤と白/小話?
2014/12/30

 いくら我が家が貧しかったとはいえ、人様のものに手を出すほど落ちぶれちゃあいなかった。少ないなりに母の稼ぎで慎ましやかに暮らしたものだ。ただご近所さんはみんな似たような境遇なため、時折助け合い精神が働いてはうちの食い扶持が減ってしまったり、うちの食卓が華やかになったり。つまり全ては時と場合による。生まれた時からそんな境遇だったせいで、それを悔しいとか悲しいとかマイナスな面で捉えることはしなかった。おかげでハングリー精神が身について今に至るわけだから、むしろ感謝すべきだろう。

「と、烏さんは語りましたが、ぼくは違います。生まれも育ちも彼よりは裕福だった分、一日にパン一つしか食べられないような暮らしがそれなりに苦痛でした。元々食欲も旺盛で、体も大きくなりかけでしたから、突然少食に変わるのは難しかったです。代わりにぼくは睡眠を求めました。けれど夜襲があれば逃げ惑う羽目になりましたし、安らかな寝床を探すのも難しくて。昼間は働く方法もないもんだから、こっそりと店頭の商品を拝借したり、バレたら逃げるだけの足と頭はありましたが、もちろん捕まることも度々ありました。それでも生きることに必死でした。彼のいうハングリー精神とはすこし違う形で培ったそれは、ぼくの知らない間に大きく逞しくなったと思います」

 気づけばぼくは悪事と善意の境目が曖昧になっていた。彼は彼の周りがくれた善意をよくよく知っていた。ただ一つ気になるのは、ぼくたちの性格にここまで差が開いたのは本当に、生まれ育ちがすこし違ったせい、だけなのかということだ。




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