白と赤?/小話
2014/12/20

 知らないの? あの子はとっくの昔に亡くなったのよ。
 面白がって語り合うご近所の声は、ずいぶんと耳に痛い。知らなかったと厳かに同情する彼女も、いい子だったのにねと知った風に頷く彼女たちも、きっと誰もが心の底で話題の種を楽しんでる。いずれ話題は噂に代わり、水でカサ増し尾ひれをつけて、立派に育まれていくのだろう。とんだありがた迷惑だ。

「よくあるこっちゃ。気にした方が負けやで」

 通信機を弄りながらあっけらかんと言ってのけた烏さんは、親しい先輩を亡くしたのだという。けれどそんな素ぶりは一度も見せないし、誰もそんな話題を見せない。「人の噂も七十五日ってな」裏のボルトを回しながら、彼の調子はやはり変わらない。

「慰霊碑には刻まれとるからな、誰かしらは覚えとんにゃろ。でもそれは話を盛り上げとった全員とちゃう。尾ひれしか知らんやつは十日も経たんと記憶の端に寄せとるやろ。そんなもんやって。人が人を覚えられとんのは、けっこう短いもんや。もちろんおれは忘れられるわけあらへんけどな」

 パチリと、蓋がはまった。机にドライバーを投げ捨てて、烏さんは本体を電気に透かす。

「事実を知っとるやつだけが、ずっと覚えとったらええねん。そしたらニセモンはいつかおらんようになるから。それまでは色んなもん、知らん顔で流しとったらええ。無駄に誇張する必要も、事実を教えたる必要もない。どうせみいんな、忘れるんやから」

 よっしゃできた! 修理の出来にすっかり満足したらしく、烏さんは弾みをつけて立ち上がる。元通り、いやどこかデザインが変わった気がするその通信機を、くるりと掌で一周させてにやり。彼は軽い足取りで扉に向かった。「せやせやちなみに」扉を半分開いたところで、彼は一言。

「おれは、お前の妹んことよう知らんよ」

 そういえば、そうだったかなあ。


(羽化を拒否して眠りにつくの/141220)




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