*

辺りはすっかり暗くなり、夜空に打ち上げられる花火。河川敷には寄り添うように並ぶ二人の姿があった。


『わぁっすごい…』


次々と空に咲く花火に見とれ時を忘れるよう。しかし感じる視線にふと隣を見ると蛮骨が名前を見て微笑んでいた。


『なに…?』

「いや、綺麗だなと思ってよ」

『なっ…何よそれ!嘘ばっか!』

「嘘なんかつくかよ!俺が嘘が嫌いなのはよく知ってんだろ?」


赤面する名前を見て、蛮骨はおもしれぇ奴だなんて言ってくすくす笑っていた。



「あ、そうだ名前。目つぶってみろ!」

『え?なんで?』

「いいから!つぶってみろ」

『う、うん…』


名前は言われた通り目をつぶった。すると膝に置いていた手をひかれ、何かを握らされる。


「もう開けていいぞ」


蛮骨の声を聞いて恐る恐る目を開けて握った手を開いてみる。
すると名前の手の中にあったのは藍色の髪飾りだった。所々に胡蝶蘭の飾りもあしらわれてとても美しい。


「お前欲しがってたから…」

『蛮骨が選んでくれたの?』

「まぁな…」

『嬉しい』

「…貸してみろ」


そう言って髪飾りを手に取ると名前の後ろにまわり、まとめていた髪に取り付ける。


「よく似合ってる」


落ち着いた藍色と胡蝶蘭の花は名前にとても合い、それを見た蛮骨は思わず呟いた。


『ありがとう…』

「おう…」


蛮骨はそっけない返事をして空の花火へと視線を戻した。しかしその頬にはどこか赤みを帯びているようにも感じられ……。



『蛮骨、お酒飲んでる?』

「あ?飲んでねぇけど…」

『だって顔赤…』

「あ゛ー!」

『なっ何!?』

「花火すげぇぞ!」

『…まだ次の花火上がってないよ』

「おっ…俺の目には空に花火が見えてんだよ!」

「え…、頭大丈夫?」

「っるせー!」


今度は一目瞭然なほど顔を赤く染めた蛮骨をいたずらに笑い、名前もまた空を見上げる


「ほんとだ…」


昨日まで悲しみを煽るだけでしかなかったこの綺麗な夜空。
この空に散らばり光を放つ星はまるで――、


「星の花火だね」





end




(あとがき)


ここまで読んでくださりありがとうございます!
今回は愛様よりリクエストをいただきまして、この小説が出来上がったわけですが大丈夫ですか、これ!?喜んでいただけたでしょうか…!

書いてるうちに段々暗くなりそうでちょっと不安だったのです。でも最後はハッピーエンドということでこのような感じになりました!
相変わらず駄文でしたがここまで読んでくださったあなた様に感謝です。




(おまけ)


二人は再び上がり始めた花火を見つめる。
特に会話はなかったものの二人の間には和やかな空気が流れていた。

ふいに名前の手の甲に触れた大きな手、声を掛けると蛮骨は少し照れくさそうに振り向いた。


「口づけしてもいいか?」


突然そんなことを言われ名前は赤くなったが、答える代りにゆっくり目をつぶった。



顎を持ち上げられ息がかかる。


しかしいつまで待っても唇は触れなくて、もどかしくて目を少し開けた。


『……蛮骨?』

「しっ…」

『?』


口元に人差し指をあてる蛮骨に従って名前は口を閉じて耳を澄ました。
すると…


「動くんじゃねーよ!聞こえちまうじゃねーか!」

「だって今いい男いたんだもん!」


小さいながらも確実に上の方から何者かの声が聞こえてくる


『誰かいるの…?』

「はー、仕方ねぇな……。あ゛、色男!」


ガサッ――
蛮骨が大声で叫ぶとすぐに土手の草むらから誰かが頭を出した


「え、どこ!?……ぬぉ!?」


ズザザッ――
そのままバランスを崩したかと思えばもう二人の男と共に急斜面を転げ落ちてくる。
蛮骨と名前の前で止まったその三人の顔が花火の光に照らされ明らかになった。


『アンタ達…』

「「「あ…」」」

「てめぇら…」

「「「……てへっ!」」」

「てへっ!じゃねぇ…!」


蛮骨は俯いて拳を震わせる


「お…怒らないでくださいよ、大兄貴」

「俺達ただの通りすがりだし、気にせずに…」

「「「さっきの続きを…!」」」

「…っうっせぇ!宿帰ったらてめぇら全員空気椅子だー!!」

「「「えー!!」」」



end

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