「とりあえずこっから抜け出すか!」


蛮骨は握った手を引っ張り名前を人の少ない場所へと誘導する。そのおかげでやっと人の波から抜け出すことができた。


『はぁっ、疲れたぁ!なんか昨日以上に人多くない…?』

「あぁ、今日は祭り事があるみたいだぜ?さぁ行くぞ!」



上がった息を少し整えると蛮骨は名前の手を引いてまた歩き出す。
人の波を抜け出してもなお手を繋いでくれていることを少し嬉しく思いながら、名前は蛮骨がどこに行こうとしているのか不思議でたまらなかった。

実質何故彼が名前に城下町に来てほしいと言ったのかまだ分からないまま…。



『ねぇ、蛮骨これからどこ行くの?』

「そのうち分かるって……お、いたいた!」

『ちょっと、いたって誰が?』


徐々に早くなる足取りに慌てながら名前は蛮骨の目線の先を見た。
思わず立ち止まり、繋いだ手が離れる。

蛮骨が向かう先、そこにいたのは昨日酒を飲む蛮骨の側にずっとついていた芸子達、そしてあの三人の女だった。


『どうして…?』

「名前…」

『どうしてあの人たちがいるの?』


昨日女たちにされたことが一気に脳裏に蘇り足が震える。


「大丈夫、俺を信じろ」


蛮骨は名前に手を差し出す。名前はためらいつつも蛮骨の手を握ってついていった。






蛮骨が近づくと女達は一斉にこちらを振り向く。


「悪いな、待たせて…」

「いえ…」

「ここに呼び出したのはお前たちにどうしても言っておきたいことがあったからだ」


不思議そうに顔を見合わせる女達。
名前も蛮骨が何を言い出すのか全く予想がつかなかった。



「昨日は酒飲んで調子乗っちまったが、俺にはちゃんと好きな女がいる」


蛮骨はそう言って後ろにいた名前を突然抱き寄せた。


「こいつだ」

「「「!?」」」

『蛮骨!?』


女達は嘘でしょと言わんばかりに目を丸めて二人の顔を交互に見ている。


「俺がいつまでもフラフラしてるから、お前等みたいに女を勘違いさせたことも一度や二度じゃなかった。その度に名前を傷つけて…」


その言葉を聞いて名前は目を見開いた。
蛮骨、気付いてたの…?


「だが俺の唯一は名前だけだ。けじめとしてそれを伝えたかった」


女たちは愕然と口を開けたままだ。そして蛮骨は今度は名前とちゃんと向き合う。


「名前、この機会にお前にも伝えておきたかった」


名前を見つめる目、とてもまっすぐだった。


「俺はずっとお前が好きだった、そしてこれからもずっとお前だけを好きでいたい」

『蛮骨…』


再び涙が名前の頬を伝った。しかしその涙は昨晩の悲しみの涙とは違う。
蛮骨はそんな名前を優しく抱きしめた。


「今まで不安にさせてごめんな」


温かい腕の中で名前は涙を流して何度も何度も頷いた。
体を離すと涙を拭って額に軽く口づける。


「行くか」

『…うん』


二人は微笑みあい手を繋いで歩き出す。
女達は悔しそうな表情を浮かべ、二人を恨めしそうに見ていた。
蛮骨はふと立ち止まり、そんな女たちをひと睨みする。


「あ、それから俺の女泣かせるような真似したらたとえ女相手でも容赦はしねぇぞ?」

「「「……」」」


後から名前がチラリと振り向くと女たちの顔は恐怖で引きつっていたのだった。


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