心音うらはら | ナノ

恋に落ちた、不覚にも

「ねぇ見て見て、あの人背高くない?」
「ホントだ〜カッコイイ〜」

近くの女の子たちの会話が耳に入って、つられて彼女達の視線の先に目をやった。
そこに居たのは、自分や周りと同じ新入生だと言うのに周りより頭一個分くらいは大きい身の丈の、精悍な顔立ちの男子だった。

………かっこいい。

率直な気持ちだった。
キリッとどこかを見ている姿は雑誌の表紙を飾るモデルさん顔負けのかっこよさで…思わず目で追っていたらふと彼が振り向いてバッチリ目が合ってしまった。
ビックリしてあからさまに目を逸してしまった。

…どうしよう、今のすごい感じ悪くない?
自分の取った態度に後悔しながらも、恥ずかしくて入学式の間ずっと顔を上げられなかった。


式が終わりそれぞれの教室へ戻る際も目に止まってしまう彼、自分のはるか先を歩いているその大きな背中を。どうやら彼はクラスが違ったようで安心した、ほんの少し残念にも思いながら。



「芙実は部活どうする?」
同じクラスになれた中学からの級友に声をかけられてぼんやりしていたわたしは急に我に帰った。
「あー…うん、まだ決めてない」
中学時代はバレーボール部に所属していたけれど身長が伸びず、続けていこうかどうか迷っていたとこだった。
「そういやうちの高校のサッカー部って名門らしいよ?マネージャーっていうのも有りじゃない?」
「サッカー部かぁ…」

その話には全然乗り気ではなかったけれど、下校途中にサッカー部のグラウンドあったものだから何となく足を止めた。
新学期になって間もないけれど新入部員ももう入っているのか大勢いるグラウンドは活気づいていた。

…そういえば、あの人は何部に入るんだろう?
背が高いし、バスケ部とかかな?
グラウンドを眺めながらもまたぼんやりしていたら背後から大勢の足音と大きな声が聞こえてきた。

「聖蹟〜ッファイッ!!」
「「オオッ!!」」
「ファイッ!!」
「「オオッ!!」」

反射的に道の脇に身を寄せつつ振り返った。

同じ1年生だろうか、どこかの運動部が外周の真っ最中の様だ。必死に走る十数人の男子達、そんな一生懸命に走る彼らが通り過ぎて暫く、遅れてやって来た足跡に再び振り向いたら…

「何で…俺が…外周なんぞ…ッ」
前を行く十数人の集団に遅れて、息も絶え絶えになりながらフラフラと走って来たのは入学式の時に見た、あの彼だった。
「くっそ、…一年早く生まれただけの奴らが…くそっ…」
彼は私の存在に気付いていないのか愚痴をこぼしながら空を仰ぎながら足を止めた。肩で息をしていてとても苦しそうだった。

「がんばって」
心の中で言ったつもりだった。
それなのに彼がタイミングよく振り向いたから、声に出していたと気付き血の気がひいた。そして引いた血の気が一瞬にして顔まで上ってきたみたいに頬が火照り出した。

穴があったら入りたい!今すぐ!!

「ヒーローとは罪だな、プレー以外でも魅了してしまうとは」
フッ…とほくそ笑んだ彼が呟くように発した言葉は予想外過ぎて頭が解読するのに少々時間を要した。
「えっと…」
フハハハハ!
と笑いながら再び彼は走り出した。
ほんの少しだけど、さっきよりは力強く1歩1歩を踏み出すように

「大柴!遅ぇぞバカ!!」
「また外周増やされんだろーが!」

離れて走る仲間達にどやされながらもふらふら走る彼の背中が見えなくなるまで私はしばらく、その場を動くことが出来なかった。


今日分かったこと
背が高くてカッコイイ彼の名前は大柴くんだということ、サッカー部だということ、ちょっと言動がおかしな人だったということ…それでも私の頭の中は彼でいっぱいになってしまったということ。

最初は興味がなかったサッカー部のマネージャーというものを真剣に考え始めたということ。


動機は不純でも…



「ヒーローは…やはり俺…」

外周で力つきた大柴は大の字で寝そべりながらも呟いた、それはもうゴキゲンな様子で…

「は?大丈夫か?大柴…」
「ほっとけ、バカは」


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