1059 | ナノ

きみのきもち

『何処ですか〜、宵闇の羽の方ぁ〜♪』

鶴姫ちゃんが東軍に参入してから軍の雰囲気は華やかになった気がする。

恋する乙女のパワーは何より強い

『東軍の勝利は確実ですね氏政さま』
隣でお茶をすする主にお茶菓子を勧めた

『うむ、わしが居るからのぅ』

『そうですね、氏政さまがいますからね』

そこに吹いた突風と
舞い落ちる黒い羽が
あの人が現れたことを知らせた

私たちがいる桜の木の上に姿を見せた


『お疲れさまです、風魔サン』

『……………』

氏政さまの命を着々とこなしていく傭兵の風魔サン

話したことはないけれど…
私は尊敬してるんですよ

強くて凛々しくてカッコよくて…私の憧れで


『任務が終わったのでしたら私と手合わせしませんか?』

『…………』

『私もそれなりに鍛錬してきた身ですから、風魔サンの暇つぶし位にはなると思うんですけど…』

『………』

やっぱダメか
ちょっとでもお近づきになりたくて自分から歩み寄ってみるけれど、返ってくるのは沈黙だけ

いつもの事だからなれてるけど…

項垂れた私の髪をフワリと巻き上げるように起こった風

顔を上げれば風魔サン

『……………』


何か言いたげに見えるのは私の気のせいですか?


『宵闇の羽の方ぁ〜、何処ですかぁ〜』
鶴姫ちゃんが風魔サンを探して近くまで来ているみたいだ
声が聞こえてきた

『鶴姫ちゃん、さっきからずっと風魔サンのこと探してたみたいですよ?』

『……………』

流石の風魔サンも恋する乙女には敵わないみたいで

『あんなかわいい娘に追いかけられるなんて風魔サンも隅に置けませんね』

冗談ぽく言ってみたって返ってくるのは相変わらずの沈黙

『あ、見つけました!宵闇の羽の方ぁ〜♪』
ハートを散りばめたようなキラキラしたオーラをまとった鶴姫ちゃんがこちらに駆けてきた

『逢いたかったです〜、宵闇の羽の方ぁ〜♪』
両の腕を広げ風魔サンの懐に飛び込む鶴姫ちゃん

羨ましいくらいの積極性
見習うべきでしょうか…

けれど空を切った鶴姫ちゃんの腕
残されたのは宙を舞う黒い羽

『あ、何処へ行かれたの?宵闇の羽の方ぁ〜♪』
凝りもせず再び風魔サンを探して何処かへ向かった鶴姫ちゃん

恋する乙女の鏡ね
感心して眺めていたら…風魔サンの残した黒い羽と一緒に厚みのある赤い花びらの花がふわりふわり舞い落ちてきた


『…椿、ですか』
手のひらに収まった大振りな花は鮮やかでとても綺麗だ

『フォッフォッフォ…ッ、ゲホッゴホッ、あやつも粋なことをするわい』
噎せながらも愉しそうに笑う氏政さま

『…これ、風魔サンが?』

『そうじゃろ、ここには桜の木しか無いからのぅ』

…そっか
何か言いたそうにしてたのってこれだったのかな

自然と緩む口元

言葉は無くても
伝わる想い


ほんのちょっとずつだけど
あたし、風魔サンに近づけてるみたいです


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