1059 | ナノ

寝言

『……』

『…鈴、…鈴?』


私を呼ぶ元就さまの声がする

穏やかで柔らかい声
とっても落ち着くんですけど…

その声で『好きだよ』とか『可愛いね』とか言ってはくれませんか

耳元でささやいて

それからギュッて抱きしめて


私はこっそり願ってる
そんな浅ましい思いをいつも抱いてる


夢のなかでくらい
お願い叶えてくれませんか?

ムニャムニャ



『…参ったね、これは』

周りに目もくれず書物に没頭していた元就

いつしか鈴がお茶を持って現れたのには気づいたが…

なんせ書物を読み出すと周りが見えなくなってしまう

となりで鈴が適当に手にした本を読み始めていた事なんて知りもしなかった

だからふと肩に感じた重みに驚いてしまった

鈴は元就の肩にもたれ掛かって気持ち良さそうに眠っている

『…元就さま』

『起きたのかい?驚いたよ、気づいたら隣で寝ているんだから…』

覗き込んだ鈴の顔はまだ夢の中

…寝言、か

ムニャムニャ
『…大好き』

…眠る鈴から紡がれた言葉に元就は柄にもなく激しく動揺した

いったい、どんな夢をみてるんだい?

もたれ掛かっていた鈴はいつの間にかしっかりと自分の腕にしがみついている

これでは読書どころではない、ね

しかし、幸せそうに眠る鈴を起こす気にはなれず

ポリポリと頭をかいて読みかけの書物を閉じた



ずっと側で見守ってあげたい


起こさぬようにそっと、鈴を布団に運ぶ

『世話を焼くのは君の仕事だろうに…』

呟くように不満をもらしつつも憎めない彼女を見つめる自分は…

頬が緩んでいただろうね



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