恋人繋ぎに憧れる | ナノ

いとおしさの迷路

出会いは突然に訪れた。

身長194cmの俺は、いろんな運動部から勧誘をされていた。特に何がしたいって言う目的もなかったからどの部活に入ろうか正直迷っていた。

やっぱバスケ部か、身長を活かすなら…
でもしんどそうだなぁなんてぼんやり考えていたらクンッと背負っていたカバンが引っ張られたきがして振り返った。
視界の下の方に頭が見えて視線を下ろす、そこにいたのは自分より30センチ、もしかしたらそれ以上小さい女の人。

「君、大きいね、身長いくつ?」
随分下から見上げてくるキラキラした笑顔に一瞬、呼吸を忘れた。すごく、可愛いと思った。

「…ひゃく、194…センチ」
俺の答えに彼女はますます目を輝かせた。

「194!?すごい!おおきいね!」
「うん、まあ、うん」
真っ直ぐにこんな高揚した視線を向けられたのは初めてで、言葉がなかなか出てこなかった。
多分、俺は緊張していた。

「もう、部活は決めましたか?」
「…いや、まだだけど」
俺の答えを聞いて彼女は俺の手を取り、笑顔で言った。

「いっしょに、バレーボールしませんか?」

そんな眩しくて綺麗な笑顔で誘われたら、断れるわけないじゃないか。
俺は、笑顔で「はい」と答えた。



「…灰羽がバレーを始めたきっかけは百咲先輩ったこと?」
「そう、先輩が可愛かったから」
「ふーん」
俺が百咲先輩と付き合っていると言う話はあっという間に広まって、今も犬岡がきっかけとかいうのを聞いてきたから答えてやっていたのにコイツは話よりパンを選ぶことに気を取られている。
話がいのない奴だ。

「それで、二人が付き合うことになったきっかけは何だったの?」
芝山はまだ興味津々と言った感じだった。
「そんなの、俺が好きだから付き合ってくださいって告白したらいいよーって言ってくれて、それが3日前」
「へぇ、なんか、淡々としてるね」
「…そう?こんなもんなんじゃないの?」
「さぁ?僕は告白とかしたことないし良くわかんないけど、ドラマとかじゃもっとこう…」
「ドラマじゃないしな!現実はこんなもんだろ」
「そっかーそうだよねー」

こんなもんだ!と言ってみたはいいけど、急に自信が無くなってきた。
もしかして、先輩は勢いで返事しただけとか、付き合うの意味を勘違いしてたりしないだろうか、と。

「…犬岡、芝山、ちょっと俺、先行く」
「え?あー、うん」
首をかしげた二人を置いて俺は駆け出していた。

部活開始まではまだ時間がある。
でもマネージャーである彼女はいつも、みんなより早く体育館にいる。
俺は、着替えも済ませないまま、体育館に駆け込んだ。

「先輩!」
背後から大きな声をかけてしまった、先輩の肩はビクッと揺れた。
「あ…スンマセン」
「灰羽くん?どうしたの?着替えもしないで」
驚いた顔のまま振り向いた先輩、そんな顔も可愛くて息を呑んだ。

「あの、ちょっと、聞きたいことがあって」
そう言うと先輩はふわりと笑みを浮かべた。
「なーに?」
今更だけど、俺はかなり恥ずかしいことを聞こうとしているんじゃないか。
それでも心に生まれた不安を無くしたくて俺は口を開いていた。

「…あの、先輩は、俺の、彼女ですよね!?」

ずいっと身を乗り出して先輩に詰め寄った。
彼女はキョトンとしばらく俺を見上げていた、そしてすぐに笑い出した。

「フフっ、何これ?なんの確認?」
「だっ、大事な確認なんですよ!」
真剣な俺に先輩はまた笑って両手を伸ばしてきた。
「え?えっ?えっ!?」
そして先輩の小さな手に包まれたのは俺のほっぺた。
そして、にっこり微笑んで
「私は、灰羽くんの彼女です」
そう言ってくれた。

胸をいっぱいにしてくれたのは安心と彼女への愛しさで、抑えきれないこの思いを、抱きしめることで表現した。



「あーーーー!!」
大きな声がして顔をあげたら入口のところに顔を真っ赤にした猛虎さんがいた。
そしてまた、「裏切り者ぉおおお」って叫びながら体育館から飛び出していった。


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