恋人繋ぎに憧れる | ナノ

後輩に彼女が出来たそうです

「女性とはどのように会話すればいいでしょうか」

バレー部の部室に入ると、正座しながら神妙に質問していたのは山本。
その目の前で携帯ゲーム機にかじりついていた研磨は顔を上げず声だけで答えていた。

「さぁ、べつに、フツーに話せばいいんじゃ
ない?」
「フツーがわかんねえから聞いてんだろ!!」
「…」
「無視かよ!!」
山本はダン!!と悔しそうに床を叩いた。

「山本、八つ当たりすんな、床が可哀相だろ」
「夜久さん!俺より床の方が大事なんスか!!」
さっきまで研磨にすがっていた山本のターゲットが今度は自分になったようでため息が出た。
「山本、うるさい…」
まだ携帯ゲーム機にかじりついたままの研磨もため息をついた。

「おいおい、そういうのは俺に聞けって。研磨に聞くことが間違いだろ」
ニヤリと不敵な笑みで会話に入ってきたのは黒尾だ。
「…いや、なんか、クロさんはいいです」
「はぁ!?なんでだよ、聞けよ俺に」
ドンと胸を叩いた黒尾に海がボソりと言った。
「参考になるかならないかより頼りにしたくないって感じかな?」
「言ってくれるな、海…」
「…なんとなく、わかる、それ」
「一般的な意見だと思うぞ」
「ヒドイな!!」

そして騒して々しい部室の扉が勢い良く開かれた。
「ちわーっす!あれ、何話してんスか?」
そこにやってきたのはリエーフだ。
また一層騒がしくなるな、と頭を抱えた。

「お前には関係ねぇ」
舌打ちをした山本は冷たく言い放った。
「えー?何スか何スか!気になるじゃないですかあ」
そんな様子の先輩を気にもとめずに食い下がる、このリエーフの無邪気さはある意味長所だろう。

「山本が女子と喋るにはどうしたらいいかって話をしてたんだ」
そっぽ向く山本の代わりに海が答えた。
それを聞いたリエーフは大きな声で笑った。
「どうしたらって、フツーに喋ればいいじゃないですか!おもしれー猛虎さん!!」
「黙れ!それができねーから聞いてたんだろーが!裏切りもん!」

「…裏切りもん?」
不名誉な言われ方をしてリエーフはきょとんと首をかしげた。
山本は涙目になりながら言葉を絞り出した。
「裏切りもんだろうが…!彼女なんか作りやがって!!」

リエーフはまた笑った。
「えー?なんで俺が彼女作ったら裏切りになるんすか?猛虎さんも作ればいいじゃないですか?」
「でっ、出来たら早々に作ってるわ!!」
山本はいよいよ泣き出した。

「んなことより、リエーフ。いつの間に彼女なんて」
「なんだよ羨ましい、誰だよ、同じクラスのコか?」
その質問はリエーフが答える前に海が答えた。
「百咲美弥、だろ?」

海が答えた名前はマネージャーの名前だった。

「あれ、海さん知ってたんですか?」
「彼女とは同じクラスだからな」
「まじかよ、手出すの早いなお前」
「やめてくださいよ、その言い方」
「事実だろ」

騒がしい部室にノックの音が響いた。
「あの〜、今入っても大丈夫?」
噂の人、リエーフの彼女だった。

「はーい!大丈夫ですよー」
リエーフが嬉しそうに扉を開けたら百咲が顔を覗かせた。
ファッ!?と変な声を上げて山本が硬直した。
「どうしたんすか?こんなむさ苦しいとこに」
「もう、むさ苦しいとか言わない。備品届いたから部室に置いといてくれる?」
「はーい」
リエーフに笑顔で応える百咲、あー、まぁ、お似合いかな?と思った。

「あ、そうだ猛虎さん!」
リエーフは百咲を山本の前に座らせた。
山本は極度の緊張のあまり、呼吸が止まってるようだ。
「百咲先輩で女の人と話す練習したらいいじゃないですか!ね?」
話の流れをつかめていない彼女は首をかしげながらも黙って山本を見つめている。

「あ…う…っ駄目だーーーーっ!!」
顔を真っ赤に染め上げた山本は部室を飛び出した。

「…駄目?…私じゃだめなの?」
「先輩は全然ダメじゃないっス!むしろサイコーに可愛いです!」
「…エヘヘ、ありがとう」

黒尾は二人の世界に入り込む二人を強引に引きはがしため息混じりに言った。
「おら、イチャイチャすんなら部室の外で頼むわ、着替えるから」
「はーい!」

リエーフと百咲が出ていってから、大きなため息をついた。

「はぁ…やっと静かになった」
「あぁ、そだな…」

今日もバレー部は、平和です。



[ back to top ]