澄み渡る青空とは相反してどんより曇る俺の心。
本日は伊達工業高校の入学式。
俺、二口堅治はめでたくこの高校に入学したのである。
そんなめでたい門出の日に、なぜこんなに浮かない顔をしているのか。
それは、この高校の男女比率を知り絶望したからである。
「…クラスに女子一人とは聞いてねぇよな」
いっしょにクラス発表の掲示板を眺めていた青根に向かってぼやいた。青根は興味なさげだったけれど…。
工業高校に女子が少ないことは承知の上だったが、自分のクラスにはたった一人、青春の終を告げられた気がした。
「一体どんな女子だろーな?」
青根は俺の問いかけに頷き応えたけど、実際そんなことに興味はない。こいつの頭の中はバレーばっかりだ。無口で顔が怖いせいもあって、初見でのこのこ寄ってくる女子もいない。
そんな青根とは中学からの付き合いだ、こいつと仲良くなったのも自分の頭の中がバレーでいっぱいだったからということになる。
「お前だってむさくるしい男だらけより女の子いっぱいいた方が嬉しいっておもうだろ?」
女子についての話題に薄い反応の青根に問いかけたが、相変わらずの首をかしげてキョトンとする青根。
こいつは恋愛とかすることができるのだろうか、一生独り身なんじゃないかと余計な心配をしてしまった。
「まぁ、工業高校選ぶような女子なんて期待はしてないけどな…どうせ可愛い子はふつーの公立高校とか行っちゃってるよなぁ」
そうこう話をしてる間に自分たちのクラスに到着した。
青根はズンズン教室の中に入っていったが、俺は入口で足を止めた。クラスにたった一人の女子を探して教室を見回した。
「…居ないじゃん」
つまんね、まだ来てないのか…と口を尖らせていたら
「あの、教室入りたいんだけど…」
さっきから聞こえてくるむさくるしい男の声とは違う、涼やかで耳心地のいい高めの声がした。
バッと振り返って見えたのはつむじ。
目下に居たのは、自分より随分と小さな女の子だった。
「え、アンタもしかして…このクラス?」
「うん、そうだよ?」
おもいっきり見上げてくる彼女は紛れもなく女子で、ひと言でいえば裏切られた感満載だった。クラスに一人だけの女子、わざわざ工業高校を選んだ女子が可愛いなんてことを一切期待をしていなかった俺を大いに裏切った。
第一印象は小動物、つぶらな瞳で見上げてくる彼女は紛れもなく可愛い系の女子だった。
「…てかちっさ!めっちゃ小さくね?身長何センチ?」
「149cmだよ」
「150cmないの!?まじでちっせー!!」
「君が大きいんだよー」
ろくな挨拶もしないでこんな無礼なことをいう俺にも笑顔で答えてくれる彼女は性格もいいと見た。
「青根!青根ー!ちょっとこっち来い」
俺は既に席についていた青根を呼んだ。
歩み寄ってきた青根のとなりに彼女を立たせた。高校一年にして180cm後半の青根と彼女の身長差は30cm定規でも足りない。
「すげー身長差!笑える!!ね、写真撮っていい!?」
「え?…二人で?…私は別にいいけど…」
バカ笑いする俺に頼まれてOKするなんて、どんだけいい子なの?むしろお馬鹿なの?そう思いながらも目の前にある面白い光景をスマホでしっかり撮影した。
「ほんと大きいね、えっと…何君ですか?私は直井ちこだよ」
「こいつは青根高伸、俺は二口堅治ね」
「青根くんと二口くんか、よろしくね」
花が咲いたみたいな彼女の笑顔。彼女に小さく頭を下げた青根、その顔はほのかに赤い。
…こんな青根、見たことない。
これはなんだか…青根の甘酸っぱい青春の予感を痛いくらいに感じた。
それと同時に俺の青春はやっぱり終わりを告げたけど。