過程はありきたりでいい | ナノ

お疲れ様でした

ありがとうございましたー!!!

青葉城西に挨拶をして私たちはバスへと向かった。
最後尾でみんなの大きな背中に付いていってたものだからぼんやりあるいていた私はみんなが立ち止まったことに気づかず前を歩いていた縁下くんの背中に衝突した。
「あっ佐倉!?だ、大丈夫か?」
背中の衝撃に縁下くんは慌てて振り返った。
「私の方こそごめん…、それよりどうしたの?」
縁下くんの後ろから顔をのぞかせてみるとその先には及川さん、さらには彼に全力で絡もうとしている田中くんとその影からピョコピョコ覗き込んでる日向くんの後ろ姿があった。

「え?ケンカ?止めなくていいの?」
縁下くんのジャージをグイグイ引いて訴えたけれど彼は心配ないよと呆れたような笑顔を浮かべた。
「田中のあれは日常茶飯事だからね」
「ええ?」

ソワソワしながらも彼らの様子に耳を傾けた。
「今度は全力でやろう、そうそう、サーブも磨いておくからね」
及川さんがそう言うとみんなの表情が若干、強ばったように見えた。
素人の私から見ても、及川さんのサーブは強烈なものだった。苦戦していた月島くんを思い出す。

「レシーブは一朝一夕で身に付くものではないよ、キャプテン君ならわかってると思うけど」
そして笑顔で手を振りながら言った。
「大会まで時間はない、どうするか楽しみにしてるよ」

そうか、公式戦で勝ち上がっていけばまた対戦することになるかもしれないんだ。あの、物凄いサーブを攻略しないことには勝つことは出来ない…といっても過言ではない、と思った。
今日は勝てたけれど、彼が最初から出ていたら…勝てていたかはわからない。
大地さんの表情はそんな不安を物語っているような気がした。

しかし、そんなシリアスなムードをぶち壊したのは及川さんだった。
「あっ!眼鏡のマネちゃん見っけ!」
彼は潔子さんに手を降りながら近づいて行ったのだけど…
「ヤッホー、今日はお疲れさま〜」
「………」
あれ?潔子さん無反応…
笑顔の及川さんの横を通りすぎバスの方へすたすた歩いていってしまった。

及川さんの背後では田中くんや月島くんがざまぁみろ!と言わんばかりに笑っているのが見えた。
彼の笑顔もどことなくひきつっているように見えて、なんだか…可哀想な気になってきて…

「あれー…聞こえなかったんですかね?あはは…」

つい、フォローをしてしまいました。

「そーだね、聞こえなかったみたいだねーだから気にしてないよ?べつに、全然、気にしてない」
両手を広げて爽やかに告げる彼は演劇の主人公でも演じているみたいだった。
「は、はい。そうですよね、あはは」

すっかり気を取り直した彼はもう笑顔に戻っていて私の名前を聞いてきたりして、めげない人だなぁと感心した。
まぁ、名前くらいなら教えて困ることは別にないだろうと、答えようとしたら口を開くより前に田中くんが私たちの間に割って入ってきた。
「おうおうおう、うちのマネージャーに気安く声かけてもらっちゃ困りますよ優男さん」
怖い顔で睨む田中くんに少しも動じてない及川さんは笑顔で応戦した。
「そんなに睨まないでよ、名前を聞いてただけなのに」
「優男さんに教える名前なんて無いんすよ、なっ佐倉」
「佐倉ちゃんて言うんだ、名前は?」
「チィッ!しまった!!もういい、いくぞ佐倉!!」
田中くんは不本意ながら私の名前を明かしてしまった事が恥ずかしかったのか、悔しそうな顔で舌打ちをした。そして私の背中を押しながら、その場を立ち去ろうとした。

追いかけてきた及川さんの声
「またね佐倉ちゃん、今度は大会で会おうね〜」
一応振り向いて小さく会釈したのだけれど、そんなことしなくていい!と怒られてしまった。

「なんか…変な人だったね?」
「まったくだ!気に入らねぇ奴だったぜ」
「…スガさんがいってたけど、田中くんは初対面の人は大抵気に入らない習性があるんだよね?」
「ンなッ!?そ、そんなことねーよ!スガさんめ〜変なこといってー!!」
「フフッ、でもさっきは一応助けてくれたんだよね?」
田中くんは一瞬驚いた顔をしたけれどすぐに顔を背けて、彼らしくない歯切れの悪い物言いで答えた。
「い、いや、なん…まぁ、…ウッス」

そんな彼に、ありがとうと伝えたら礼を言われるほどのことじゃねーよと返された。

「そのせりふ、正義のみかたみたいでかっこいい」

そういったら田中くんの顔が赤くなったような気がした。建物の隙間から差し込んできた夕日に照らされたせいかもしれないけれど。


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