過程はありきたりでいい | ナノ

ソーダ水みたいに

青葉城西との練習試合はセットカウント2―1で烏野が勝利した。

後片付けもあとわずか、もうすぐバスに乗り込むんだと思ったら来たときの日向くんのことを思い出した。
「あの、潔子さん?」
「どうしたの?」
「もう緊張から解放されたから大丈夫とは思うんですけど、またバスで日向くんが具合悪くなるとあれなので…飲み物を買ってきておこうかと思うんですけど」
話すと潔子さんもあぁ、という表情をしてうなずいた。
「一応、用意しておいた方がいいね。玄関の側に自販機あったと思うからお願い」
「はい!急いでいってきます」

体育館の出口に向かって歩き出したらまだ着替えの途中だった上半身裸の田中くんがすごい勢いで駆け寄ってきた。
「え!?ちょ、なに!?」
「お前!一人でどこいくつもりだ」
「ど、どこって…ちょっと飲み物かいに行くだけだよ」
「…そうか、だったら俺も行く」
「え!?」
「また変なのに絡まれたら大変だろー!」
田中くんは胸をどんと叩いて誇らしげにいった。
「俺がボディーガードになってやらぁ!」
とっても頼もしいボディーガードだなって思ったけれどやっぱり目のやり場に困った…

「あ、ありがとう。でも、その格好じゃ…」
田中くんはやっと自分が上半身裸だということに気づいたようで慌ててTシャツを取りにベンチへ戻った。
「待ってろよ佐倉!絶対先にいくなよ!」
大きな声で呼び掛けられて回りの視線が集中してるように感じた。
「…うん、待ってるよちゃんと」
あんまりにも恥ずかしくて顔をあげられなくてその声は田中くんに届いたかどうかはわからない。
そのすぐあとに「うるさい!」と言う先輩の声が聞こえてきたので叱られてる田中くんの姿が目に浮かんで思わず吹き出してしまった。




「佐倉、飲みもん持ってたろ?もう飲んじまったのか?」
「え?まだあるよ?」
佐倉は自動販売機の一番上の天然水のボタンを押した。
「??じゃあなんでわざわざ…」
「日向くんが具合悪くなった時のためにね、もう平気っぽいけど一応」

日向め、こんなに気にかけて貰いやがって…別に羨ましくなんかないけど。
受け取り口からペットボトルを取り出した佐倉はまたコインを投入し始めた。
「おいおい、日向のために何本買う気だ?」
今度は定番のソーダのボタンを押した。

「あ、うん、…」

ガコン、と音をたてて落ちてきたソーダのペットボトル。
それはいつの間にか俺の前に差し出されていた。
「これは田中くんに!」

「え?」

「練習試合勝利おめでとう!そして、おつかれさま!ってことで」
冷えたペットボトルを差し出してニッコリ笑った佐倉、その様子はCMみたいに絵になっていた。

「いい試合見せてもらったお礼というかなんというか…まぁ軽い気持ちで受け取ってよ」

「お、おう、ありがとな」
ペットボトルを受け取ってきわめてクールに礼を言ったつもりだけど本当は踊り出したいくらい嬉しかった。

想いが弾けた

このソーダは家に帰ってから風呂上がりに味わって飲もうとしていたのに、風呂から上がったら先に姉ちゃんが飲んでいて今までにないくらいの勢いでキレた。



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