過程はありきたりでいい | ナノ

関節キスはなんの味

練習試合が決まった。
県大会ベスト4の青葉城西高校。

また、試合が見れるんだ。
今度は6人対6人の、正式な試合だ。

「はぁ〜っ、ドキドキします」
「市子ちゃんが緊張してどうするの」
バスでの移動中隣の座席で潔子さんがクスクスと笑った。女子でも見惚れるほど綺麗な笑顔で。

その通りなんだけれどどうにもソワソワしてしまう。他校との試合、日向くんと影山くんのおかしな速攻がどれだけ通用するか楽しみすぎるんです!

それから…

座席から顔をのぞかせ最後尾の座席を見た。

「日向ー、ポッキーやるぞー」
隣に座る後輩にお菓子を分け与えてる田中くんの姿を捉えた。
いつもと変わらない様子の彼に、思わず笑みをこぼした。

「市子ちゃん、前向いて。酔っちゃうから」
「あ、はい!すみません」
潔子さんに言われてあわてて前を向いたけれど
田中くんは緊張なんてしないんだろうか、あの様子じゃむしろ楽しみなくらいなんだろうな…
彼の豪快なスパイクが見れると思ったらまた、ドキドキが止まらなくなった。

ああ、たのしみだなぁ

その直後、あまりの緊張に堪えきれなくなった日向くんが田中くんの股間に嘔吐していまいバスは一旦止まった。




なんやかんやあったものの無事に青葉城西には到着した。けれど日向の顔色は悪いままだ。
佐倉が甲斐甲斐しく介抱している姿を見て、日向をうやらましいとか思ったりなんかはしていない、思ってなんかない決して。

「田中さん…すみません」
「気にすんなって!それよりお前の方は大丈夫なのか?」
「はい…途中やすんだしバス降りたのでへいきです」
まだ万全な状態とは言えそうになかった日向に期待してると肩を叩いてやったらスガさんにプレッシャーだめ!と諭された。

「日向くん、気分どう?」
バスから降りた佐倉は真っ先に日向に駆け寄って顔色をうかがっている。うらやましいなんてことは思ってない。俺も日向みたいに体調悪くなって看病してもらいたいなんて思ってない。

「あ、すみませんもう、へいきです」
「そっか、でもまだ顔色よくないね、お水のむ?」
自分のバッグをごそごそ探って出てきたのはかわいいキャラクター柄のペットボトルケース、それを日向に差し出して佐倉が言った。
「これ、まだ一口しか飲んでないから気にならなかったら飲んで?」

一口しか飲んでない…一口は飲んだ、と言うことは…飲みかけ。飲みかけと言うことは…それはいわゆる…間接キス!
「何ィっ!?」
思わず声を張り上げていた。
目の前のふたりははとが豆鉄砲食らったみたいに目をしばたたかせてこっちを見上げていた。

「…あ、いや、なんでもない、です」
取り乱しました。間接キスがなんだコラ、それくらいどうってことないだろ、よく姉貴だって、俺の飲みかけのジュースとか勝手に飲みやがるし…佐倉の飲みかけの水を日向が飲むなんてことは大したことでは…

自然と目がいく佐倉の持っているペットボトルの飲み口、そこに佐倉の口が触れて、そしてそこに日向が口を付ける…

「だぁああっ!やっぱダメだ!日向の水は俺が買ってくる!!」
どこにあるかわからない自動販売機を目指して走りだそうとしたけれど、そんな俺を追い越して日向はトイレへと駆け出していた。

「…大丈夫かな、日向くん。」
「…たぶん、な」

とりあえず、佐倉の間接キスは守られた。
田中はこっそり一息付いた。


間接キスはなんの味


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