一年生の実力を見る為の3対3の試合、正式な試合では無かったけれど
汗だくな6人にタオルを渡して、最後に受け取った日向に声をかけた。
「すごかったよ、日向くん」
「あざーっす!」
試合中もとっても楽しそうにプレイしていたのがとても印象的で、その余韻を残す清々しい笑顔を向けられてつられて市子も笑顔になる。
「コートの端から端まで一瞬で移動してるしすごく高く飛んでるしでもうホント驚いたよ」
誉められて嬉しそうに頭を掻いている日向の横でドリンクを飲んでいた影山に視線を移す。
無表情ではあるけれどどことなく満足そうな顔をしているようにも見えた。
「影山くんもスゴいね。あんな精密なトス見たことないよ」
「あざス」
「すごくはやくてシュバッ!ってボールが日向くんの手元に吸い込まれてくみたいで」
「そーなんですよ!俺が降り下ろしたとこにボールが来てくれて」
「たりめーだ!俺がそこにボールを運んでやってんだから」
「それがすごいっていってるんだよー!」
そんな盛り上がる三人の後ろでポツンと取り残されたみたいに田中が立っていた。
なにかを言いたそうにうずうずしている。
「うぉっほん、ん゛ん゛」
そんな彼がわざとらしい咳払いをひとつ
「しかも日向くんてば目瞑ってたんでしょ?」
「はい!影山がボール見るなって言うから」
「だからってお前、フツーそんなことするかよ」
「日向くんにしかできない芸当だよね」
後ろの田中の存在に全く気づきもしない3人はまだ盛り上がっていた。
見るからにガクッと肩を落とした彼が見るに堪えなくなった菅原は3人の輪の中に入り
「いやぁ、影山のおかげとはいえ田中もスゴいスパイク打ってたよなー」
棒読みに近い物言いで市子の意識を彼にそらせる作戦だ。思惑通り彼女が満面の笑みで振り返った。
「田中くんもスゴい大活躍だった!」
田中の表情が一瞬で明るくなったのがわかった。
「だろ?だろ!?」
「間近で見るとものスゴい迫力で」
「だろ!?そうだろ!?」
「とってもかっこよかったんだよね」
「だ…っ!?…っ!」
彼女の口から発せられた、たぶん何気ないひとことは一瞬、田中の呼吸を止めた。
君のことばが世界に色を付ける
市子の一挙一動で落ち込んだり浮かれたり、まさに恋する者の特徴を実演してくれているかのような田中に周囲は生暖かい目で見守った。
「佐倉さんのカッコいいの基準は低そうですネ」
「おうおう月島、それどうゆう意味だコラ」
(一部を除いて)