過程はありきたりでいい | ナノ

秘密の特訓

「随分ねむそうだね、田中くん」
大きなあくびをした隣の席の彼は授業中ずっと夢のなかだったようです。

涙目を擦りながらの返事もあくび混じりの声でほんとうに眠そうだ。
「ふぁあふ、さすがに4時起きはつれぇ…」
「え?そんなに早く起きてるの?」
朝練は7時からそんなには早く起きる必要あるのかな?
「あっ!いや、め、目覚ましかけまちがってよ!」
「へえ?二度寝出来なかったんだ?」
「お、おう!」
おかしい、と思ったのだけれど彼がまた大きなあくびをしたものだからその話はなんとなくそこで終わった。


お昼休みに購買でパンを買って、あとはジュースを買うだけ。購買の自販機はいつも混んでいるから人混みを避け、外まで出てみたら…

「おー、今のナイス」
「やったぁ!もう一本おねがいしゃーす!」

校舎の裏の方から聞こえてきたボールの音
覗いて見たら其所にはレシーブの練習をしているひとがいた。

あれは、確か…
「菅原さん…」
と、もう一人はきっと1年生。
昼休みにまで練習してるなんてなんて熱心なんだろう。感心しながら覗き見していたら菅原さんと目があってしまった。

「おー!佐倉ちゃんじゃん」
右手をあげ、にかっと白い歯をみせて笑う菅原さんにつられてわたしも笑顔を返した。

「こんにちわ」
「ち、ちわっす」
「あ、日向はまだ顔会わせてなかったよね、この子新しく入ったマネージャーで…」
「佐倉市子です、よろしく」
「よ、よろしくおねがいシャース!!」
ブンッと音がしそうな程頭を下げられ思わず笑ってしまった。

「あの、ここでお昼食べてもいいですか?」
「おー。いいけどボール気付けてな?日向のどこ飛ぶかわからんし」
「す、菅原さん!…ほんとのことですけど」
「だから練習するんだろ?さ、やるべやるべ」
「はい!」
いってた通り日向くんのレシーブは360度いろんなところに飛んでいった。ボール拾いを手伝いながらパンを食べた。

「お昼休みまで練習なんて熱心ですねぇ」
高く上がったボールを眺めポツリと呟いた。
「んー、日向には朝練だけじゃたりないからさ」
菅原さんのひとことに日向くんは恥ずかしそうに頭をかいた。

「…でも日向くん、朝練でてませんよね」
そう言うと二人はギクッと肩を揺らした。
「あーっと、それは…」
菅原さんは目を泳がせながら言葉を探しているようで、その様子はさっきの田中くんとそっくりだった。

「…もしかして、朝練よりもっと早く来てたり、とか?」
二人はまたギクッと肩を揺らした。
「そうなんですね?」
「…大地には内緒な?」
菅原さんは気まずそうに顔を上げた。
「わかってますよ、秘密の特訓なんですよね?」
「サンキュ!」
二人はホッと肩を撫で下ろした。

「そっか、田中くんが眠そうだったのもそのせいなんですね?」
昼休みもご飯食べたら気持ち良さそうに眠ってしまう彼の様子を思い出しながら尋ねた。
「そうだよ、アイツの計らいで始めた秘密の特訓だからさ」

昼休みが終わって教室に戻ったら田中くんはまだ眠っていた。あんまり気持ち良さそうだから先生が来る直前まで寝かしておいてあげよう、そう思った。

「おつかれさま」
彼の耳に届くことはないとわかっていたけど、その言葉はふと口からこぼれ出していた。



−次の日、早朝−
まだ薄暗い空、人通りなんてほぼ皆無。
そんな中鼻唄まじりで軽快な足取りの真っ黒い影

「フンフフ〜ん、角を曲がったら〜食パンくわえた美少女とどーん☆…なんつって♪」
眠そうながらもご機嫌な田中、彼がちょうど校門を通り抜けた時

「おはよう」
背後から声をかけられ飛び上がった。
慌てて振り返るとそこにはいるはずのない、この朝練のことなど知るはずのない彼女
「佐倉!?お、おまっ、何で居んの!?」
「秘密の特訓、してるんだってね」
「んなっ!何でそれを!!」
「スガさんがうっかり口を滑らせて」
「うわー、マジかよスガさんっ!」
「そんな楽しそうなことしてるときいたら居ても立ってもいられないよね」
にしし〜といたずらっ子のように笑う楽しげな彼女。

「…あのさ、わかってると思うけどさ、この事は大地さんには…」
「もちろん!私たちだけの、秘密でしょ」

わざとらしく人指し指を口許にあて、なぜか嬉しそうに言う佐倉を見て、食パンくわえた美少女よりも破壊力抜群だ。田中はそう思っていた。

秘密の早朝特訓


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