恋乱 | ナノ

全部俺のもの

才蔵さんのためのお団子を山ほどつみあげたお皿を手に縁側から庭に降りる。

朝方任務から戻られた才蔵さんは朝餉を食べたあとにも関わらず
「団子は?」
「えっ、今朝餉を食べたばかりですよ?」
「お前の団子は別腹」
そんな嬉しいことを言われては私が腕を振るわないわけがなく
「わかりました、朝餉の片付けが終わってからでよければすぐに作ります!」
そう言うと才蔵さんは満足そうに笑みを浮かべて広間から出ていった

そして張り切ってたくさんのお団子を作ってきたわけなのだけれど…
才蔵さんは部屋にはいなくて、あちこちまわって最後にお庭にたどり着いた

「才蔵さーん?居ますか?」
彼が昼寝をするのによく使う木を見上げ近づきながら声をかけると
「待ってたよ」
「ひぇっ」
突然背後から声がして思わず飛び上がる。
そんな私の様子を楽しげに見ている才蔵さん
「もう…後ろから急に声かけるのやめてください…」
飛び出してくるんじゃないかと言うくらいにばくばくと心臓が騒いでいる
「面白い反応するお前さんが悪い」
そんな意地悪なことを言われるのにも慣れてきてしまっている、むしろそれすら愛しく感じてしまうあたり重症だなぁという自覚はあるつもりだ

「それにしてもさ…」
才蔵さんの視線が私の手にあるお皿に移る
山盛りになったお団子を見てどことなく、嬉しそうな笑みを浮かべてひと言
「随分作ったね」

た、たしかに…
任務で数日会えなかったこともあって…夢中になって量のことなど考えずに作りすぎてしまったみたい

「そんなに張り切って作ってくれたんだ、俺のために」
才蔵さんの笑顔はからかう時の意地悪なそれだった

その通りです。
その通りなんだけどあまりの恥ずかしさに俯くと才蔵さんの手がお団子に伸びてきた
いつも沢山食べてくれる才蔵さんでもさすがに食べ切れる量ではない、と今更ながら思えてきた…
そのときふとある人のことを思い出した

「あ…」
「…なに?」
お団子を頬張りながらの才蔵さんの訝しげな声が聞こえた

当たりを見回しても誰もいなかったけれど
「清広さんもお団子いかがですかー?」
いつも神出鬼没な才蔵さんの補佐役の彼に声をかけてみたのだけれど…返ってくるのは風に揺れる木の葉の音だけだった

「…なんでそこで清広がでてくるのさ」
めずらしく才蔵さんから不機嫌さを感じた
「え、っと…さすがに、食べきれないんじゃないかと…」
「うん、で?なんで清広がでてくるの」
「…才蔵さんが任務から戻られたならあの人もいるのかと…思ったんですけど」
「………」
不機嫌そうにじとーっと見つめられて言葉を失った
なぜ怒らせてしまったのか分からず視線を泳がせていると才蔵さんは深いため息をついた

「言っとくけど、あいつは常にそこら辺で潜んでるわけじゃないから」
「あ、そうなんですね…」

「それに、清広に分けてやる団子はないから」
「でも、さすがにこの量は…」
まだ私の手元にある山盛りになったお団子のお皿を改めて見ても、1人で食べれる量ではない、と思うのだけど

才蔵さんはその皿を私から奪い取り、独り占めするかのように抱え込んだ。

そして、お団子を食べながら呟いた…
「お前さんの団子ならいくらでも食べれるから」
そんな嬉しいことをさらりと言う
なんでもない事かのようにさらりと言う

嬉しさやら恥ずかしさやらで言葉が出てこない私をよそに才蔵さんは次々とお団子をお腹の中にしまっていく…

しばらく黙々とお団子を頬張る才蔵さんを見つめていたけれどきっと込み上げてくる笑みを抑えきれてなかったと思う



ちなみに…
多すぎたお団子は通りがかった幸村さまと佐助くんも食べてくれたのだけれど
「才蔵が芙美の団子を分けてくれるなんて……どういう風の吹き回しだ!?」と驚いていたけど…ほんと、作りすぎてしまっただけなんです…


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