ぐらぶる | ナノ

恋が追いかけてくる

グランサイファーはシェロカルテさんからの依頼をこなすためにポートブリーズに着港した
自分もその依頼に着いていく予定だったのだが…

「その熱では無理そうですね…」
ルリアちゃんは私の額に優しく触れながら心配そうに呟いた

「気にすんな、そんな強そうなモンスターって訳でもないみたいだから俺たちだけで行ってくるぜ!」
「だからゆっくり休んでて、大丈夫だから」
グランくんもビィくんもたのもしく胸を叩いて笑顔で言った

今回の依頼はとある村の畑を荒らすモンスターたちの討伐だった
大型のモンスターでは無いこともあって私は素直にみんなの言葉に甘えた

ごめんね、ありがとう…
みんなが出発したあと、残ったメンバーも街へ繰り出したのか艇はとても静かに感じた

寂しさを覚えたけどこの体では眠ることしか出来ない。大人しく瞳を閉じた、それからまもなくの事だった

コンコン

部屋の扉を叩くノックの音だった

「え…だれ?」

「俺だ」
短いひとことだったが、すぐに分かった

パーシヴァルさんだ
なんで?みんなとモンスター退治に向かったはずの人がなんで…

熱に浮かされた頭では何が何だかわからなくて呼び掛けに答えることが出来ずにいたら痺れを切らしたパーシヴァルさんが答えを待たずに入ってきた

「どどどどうしたんですか?」
パーシヴァルさんはモンスター退治に行くはずじゃなかったでしたっけ

「あの程度のモンスターなら俺が行くまでもないだろう、団長たちに任せた」

「そっか…それもそうですね」

それはわかった。
けれどパーシヴァルさんが私の部屋になんの用だろう…と思い話しかけようと口を開こうとした、それよりわずか前にスっと出された小皿

その上に乗っていたのは炎帝には似つかわしくない可愛らしくうさぎのようにカットされたりんごだった

「?????」

そのアンバランスさにそれとパーシヴァルさんを交互に見比べているとさらにずいっと私の方に差し出してきた

「食べろ、お前今朝はほとんど食べていなかったろう。食欲がないのもわかるが栄養を取らないと治るものも治らん」

ぶっきらぼうな物言いだけれど、心配してくれていたのがものすごく伝わってきた
あ、どうしよ、嬉しくてなんか泣きそうかも

「もしかして、パーシヴァルさんが切ってくれたんですか?」

「用意したのはヴェインだ。あいつがうさぎにしてあげた方が喜ぶと言って聞かなかった」

「そっか、ですよね」
パーシヴァルさんとヴェインさんのやり取りを想像して笑みが零れた

それを見てゆっくり立ち上がったパーシヴァルさん

「あ、もう、行きますか…?」

すこし寂しさを感じながらもパーシヴァルさんも暇人じゃない、引き止めるのも迷惑だろうと思い言葉を飲み込んだ

「ありがとうございました…パーさん」

「駄犬のような呼び方をするな!」

「フフッ…ごめんなさい…」

「…いいから眠れ。早く治したいのならな」

「はい」
部屋を出ていこうとする背中を見つめていたらパーシヴァルさんは扉の前でドアノブに手をかけたまま立ち止まった

「…どう、したんですか?」

「…お前が眠れないと言うなら、眠るまでここにいてやってもいい」

「…え?」

「邪魔だと言うなら部屋に戻るだけだ、選べ」

えっ、えっ、わ、うそ、まさかそんなことを言われるとは思っていなくて、混乱した

パーシヴァルさんの変化球なやさしさに私は未だになれることができないでいた

「もしかして…私の事心配だから残ってくれたんですか?」

「そうではない、俺が出るまでもないと思ったから残っただけだ」

嘘だ
自惚れるなと言われそうだけどそうじゃない
絶対と言っていい

「お願いします、私が寝るまででいいから傍に…、いてください…」
恥ずかしさから語尾がだんだん小さくなって言ったのに自分も気づいていた

いつもならはっきり喋ろと怒られそうなのに今日のパーシヴァルさんは違った

いいだろうとひとこと告げてパーシヴァルさんは再びベッド脇の椅子に腰かけた

賑やかなこの騎空団、この騎空艇では誰かと二人きりになるなんてなかなかないことだ
しかもこの静けさでは尚更…

2人きりのこの貴重な時間を長く過ごしたい反面、恥ずかしさが込み上げてきて堪らず頭から布団を被った

熱のせいだけではない、顔の火照りを隠すためにも


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