短編 | ナノ

君色に染まる心

叩くなら、折れるまで

我が青葉城西の主将で正セッターの座右の銘だ。
その座右の銘にそぐう強烈なサーブで対戦してきた何人もの選手の心を折ってきたのをベンチから見てきた。
そんな威力抜群のサーブでコースを狙うコントロールを身に付けるのは容易ではない筈で、彼が影ながら努力しているのを知ってた。

性格は腹立たしいけど、選手としての及川は本当にすごいと思っている。

「ようやく見直してくれたの?寧々ちゃん」

インターハイ予選、フルセット、それもデュースの連続で長い長い烏野高校との試合を戦い抜いて疲れきっているはずなのに、及川は自称決め顔をつくりウインクして見せた。
「選手としてはいつでも尊敬してるよ、そうゆうチャラいとこはウザいけど」
「ヒドイ!最近の寧々ちゃん岩ちゃんに似てきて辛辣!!」
彼はわざとらしく泣き真似をしてたけどそこはスルーした。側に居たマッキーはそんなやり取りを見てブフッと吹き出し、岩泉はざまぁとほくそ笑んだ。

「…でも、折れなかったね」
ボソリと呟いた私のひとことに及川のヘラヘラした笑みはゆっくりと消えた。

「あの、5番くん、ね」
1セット目、及川の最初のサーブは見事リベロの彼にフツーに拾われた。その次に狙っていたのは、5番の、ムードメーカーといえる賑やかな彼だった。
彼はレシーブが得意では無いようで、やっぱり連続でミスをしていた。このまま、及川に折られてしまうんだろうと思った。

けれどタイムアウトの時、バチィンとうちのベンチまで聞こえて来たくらい強く自分の頬を叩いていた。
「後悔は試合終わってからクソ程する!!」
開き直ったような彼は次は決めると宣言していた。

「…おいお前、タイムアウトの時よそ見なんかしてたのかコラ」
「え?まぁ、そこは置いといてさ…」

試合再開してから、あの強烈なサーブをなんとか胸で受け止めてちびちゃんやトビオちゃんのフォローで返された。その直後、自ら及川に持っていかれかけてた流れを力強いスパイクで断ち切った。

「…ほんとね、彼にはやられたよ。もっと点稼がせてもらう予定だったのにさ」
「アンタのバカみたいに強烈なサーブで折られなかった子、珍しくてね」
「バカみたいって…、てゆーか寧々ちゃん何!?試合中烏野ばっか見てたんじゃない!?」
「そんなことないよ、ただ…」

バカみたいに真っ直ぐで、前向きで、アツい彼が

「かっこいいなって思っただけだよ」

そう言ったら、マッキーも岩泉も及川も「えっ?」と豆鉄砲食らった鳩みたいになっていた。
「お前、なかなか趣味わるくね?」
マッキーが呆れたように呟いた。
「え、なにがよ?どう見てもかっこよかったでしょーが!5番くん」
「そーだよ!かっこいいっていうのは俺みたいなのでショ!?」
「「お前は黙っとけ」」
岩泉とハモればまたも泣き出す及川と吹き出すマッキー。

「まぁ、あのメンタルの強さはスゲーって思ったけどな」
「烏野にはほんと、手を焼かされたな…」

さっきの試合を思い出すとまだ、胸がドキドキする。
もしかしたら、負けていたのはうちの方だったかもしれない。そんなこと言ったら及川はそんなこと無いと怒るかもしれないけど。
それくらい緊迫した熱戦だった。


「さぁ、そろそろアップはじめんぞ!」
「「うぃーす」」

私たちは数十分後には2回戦、今ごろ彼は、悔しさと向き合っている。もしかしたら、泣いているかもしれない。
その悔しさをバネにして、彼はきっと這い上がってくるのだろう。次戦うとすればおそらく春高予選。
今日よりもっと強くなるだろう彼に会えるのを楽しみにするくらいは

…いいよね?



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