短編 | ナノ

ハッピーエンドまであと一歩

「スガはやっぱり、バレーが恋人なの?」
目の前でわたしのノートを写していたクラスメイトはこの一言で目をまんまるくして一時停止してしまった。
気さくで優しくて頼りになる彼は女子の間じゃけっこう人気があったりする。私もその女子のうちの一人だったりするのだけれど。

「ブハッ、なにそれ!俺って影でそんな風にいわれてんの?ハハッ」

そんな彼に浮いた噂が全くないので、彼女とか作ってる暇がないくらい部活に一生懸命なのかなぁという意味での一言だった訳なのだけれど、スガはお腹を抱えて大笑い。
「…ごめん、それは私の勝手な想像で…そんな風にいうひとはいないと思う」
我ながらはずかしいことを言ってしまったなぁと恥ずかしくて顔を伏せた。
「やっぱ、好きな子くらい居るよね?お年頃だし?」
「んー、まぁ、ね」
冗談めかして聞いてみたけれど肯定と取れる返事が油断していた心のど真ん中に突き刺さった。

あぁ、そうだよね。好きな子くらい、居るよね…
好きな人と放課後の教室に二人きり、そんな夢みたいなシチュエーションだったけれど今すぐにでも逃げ出したかった。

「…そういう望月は?お前も好きなやつ、いんの?彼氏はいなかったよな?」
「う…私のことはいいよ、ほんと」
たった今失恋決定したんだから…

「ずりぃべ!俺にだけしゃべらせて」
「いや、だって…私のことなんて聞いてもしょうがないじゃん?」
そう言うとノートの上を滑るように動いていたペンがピタリと止まった。そしてゆっくりと顔を顔をあげた彼と視線がぶつかる。

「しょうがなくないよ、望月の返答次第では俺は失恋しかねない訳だし…」

「……え?…えぇ?」

スガの言った言葉の意味を考えれば考えるほど、自分に都合の良い様にしか考えられなくて、でもそんな漫画みたいな展開あるか!って思う自分も居て、言うなれば私はひどく混乱していた。

そんな、ショート寸前な私に追い討ちをかけるスガのひとこと。

「あー…今の遠回しに告白みたいになっちゃったね」

恥ずかしそうに笑うスガの優しい笑顔がまっすぐ私に向いている。嬉しい反面ものすごいサプライズ。
恥ずかしさだけが一気に込み上げてきて沸騰しているんじゃないかというくらい顔が熱い。

そんな私を見てスガが言った。
「その反応はさ、ちょっとは望みはあるって期待してもいい?」

どうしよう、嬉しすぎて言葉が出てこない


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