短編 | ナノ

にくまん

4月は暦の上では春だけど夕方になるとまだまだ寒い。あったかいココアがのみたいなぁ、ほかほかの肉まんでもいいのになぁ、なんて思いながら身を縮こまらせながら歩いていたら50メートル位先にバレー部ご一行を見つけた。その中にクラスメイトの田中を発見!

「スガさーん、大地さんが肉まんおごってくれるってー」

肉まん。
素敵なワードが聞こえてきて彼のいる方へ足早に距離を詰めた。

「ゴチになりまーす!」
一斉に肉まんを頬張る彼らの背後に忍び寄り、坊主頭のわき腹を突っついた。
「ブッフォッ!!」
「うわぁ!田中汚い!」
どうやら彼は頬張っていた肉まんを盛大に吹き出した模様。

「望月か!何すんだコラァッ!」
「アハハ、ごめんごめん、まさか吹き出すとは思わなくて」
元々の怖い顔をますます怖い顔にして振り向いたんだけれど、口の回りに肉まんの欠片だらけで怖さは半減だった。

「っつーかなんで帰宅部のお前がこんな時間までうろついてんの?さては補習か!」
「アンタと一緒にすんな!委員会の仕事だよ!」
またわき腹をモーレツにどつくと田中は変な声で呻いた。

「それより、いいもの持ってるね!」
田中の手の中にある肉まんを指差すと彼は思いっきり嫌そうな顔をした。たぶんこのあと言われる言葉が想像できてしまったんだろう。

「ちょーだい」
田中からの答えはこれまた想像できて顔がにやける。
「はぁ?やだよ!」
肉まんをガードするように背中を向けられたからがら空きのわき腹にまた一発小突いてやった。
「ブヒャッ…わき腹やめろ!」
「だったらその肉まんよこせー!うりゃうりゃ」
「ギャー!やめっやめろ!」

肉まん強奪戦を繰り広げていたら坂ノ下商店の兄ちゃんに怒られた…

しょんぼりしてたら優しそうな3年生が声をかけてくれた。
「あの、俺のでよかったら半分食べる?」
ニカッと笑うその人が天使に見えた。
「え!でも、そんな!」
想定外の優しさに触れどぎまぎしてしまっていたら思いっきり体を退けられた。
「ダメっすよ!スガさん!こいつを甘やかしちゃ」
「いや、でも、なんか寒そうにしてるから…」
彼の言葉で田中がぐいんって音がしそうなほどの勢いで振り向いた。正直ビックリした。

「あー…なんだ、その、…一口だけだからな」
そっぽ向きながらズイッと肉まんを差し出されてこれまた、正直驚いた。
え?…いいの?いいの?
肉まんと田中の顔を交互に見てたら「食わねーのか!」と怒鳴られてしまったので反射的に肉まんにかぶり付いた。

「あー!お前一口がでけぇよ!」
「んふふ、ふふぁい」
「のみこんでからしゃべれ!」
「んぐっ、んまい!」
「あーそうですかぁコノヤロー」
残りわずかになった肉まんを一口で口に頬張った彼の背中を叩いて
「ありがと!このお礼はこんど、お金ないから体で払うね!」
って冗談言ってあげたらまた変な声をあげて吹き出していた。


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