短編 | ナノ

幸せは君がくれる

ロードワークから戻ってきたら体育館に居るはずだったマネージャーはいなかった。
不在ではあったけれど、ドリンクは用意されていて各々飲み始めた部員たち。

自分もドリンクを口にするもマネージャーが気に掛かり体育館の扉から外を見回した。グラウンドでは野球部とサッカー部が練習に精を出しているのが見えた…その脇の芝生でうずくまるマネージャーの小さい背中を見つけた。

もしかして、具合でも悪くなったのだろうか…
慌てて駆け寄って、名前を呼んだ。

「あ、青根くん」

振り向いた彼女は笑顔で具合が悪そうには見えなかった。
何してるか尋ねたら彼女はまた俯き地面とのにらめっこを再開した。
「…探しものだよ」
彼女は熱心に芝生の隙間をくまなく探している

「何探してる?」
聞けば彼女はちらりとこちらを見上げてはにかみながら言った。
「…四葉のクローバーなんだけど」
熱心に探しているからどんな大事なものなんだろうと思っていただけに、拍子抜けしてしまった。首をかしげていたら地面から目を離さないまま彼女は話し始めた。
「青根くんは花言葉って知ってる?」
「…いや、知らない」
「だよねぇ。あのね、草花にはねそれぞれ花言葉っていう、メッセージみたいなものが付けられてるの」

初めて知った。でもそれがどうしたと言うのだろう、首をかしげていたら彼女が振り向いた。
「さっき四葉のクローバーの花言葉教えてもらったんだけど…それ知ったら青根くんにあげたいなって思ったの」

「その、花言葉っていうのは?」
そう問いかけたら彼女の頬がわずかに赤くなった気がした。
「…知りたい?」
頷くと彼女は恥ずかしそうに口にした。

「Be mine.…私のものになって、私を思ってください、だって」

「…………」
随分熱烈な言葉だな、そう思った。そして思い出す、その花言葉を持つ四葉のクローバーを彼女は自分にあげたいと言っていたことを。
一瞬で体中の血液が顔に集まっていってしまったのではないかと思うほど、顔が熱くなった。

これは、期待しても良いのだろうか…

足元できっと自分と同じくらい顔を赤くしている彼女、そのとなりに自分も膝をついた。

「…手伝う」
「…ありがと」
その花言葉を知ってしまったら、自分も彼女に四葉のクローバーをあげたくなった。だから地面とにらめっこを開始した。

二人揃ってグラウンドの隅で踞るのを周りはおかしな目で見ていたかもしれない。それでも視界の端っこで彼女が嬉しそうに微笑んでいたのが見えたからそんなことはどうでも良く思えた。



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