短編 | ナノ

手、繋ぐのはいやだった?

わたしの彼氏は大きい。
さらにロン毛で髭生やしてて初対面では絶対に畏縮されるタイプ。それに、バレー部のエースで大砲みたいな強烈なスパイクを打つ。
そんな、他校からも密かに怯えられてる彼は…

「旭さん!なんでそんな図体でかいくせにビビりなんすか!!」
「うぅ…だって怖いもんはしょうがないだろ〜?」
「ったく、ほんとお前は見かけによらず…」

へたれでへなちょこだ。
それはもう、後輩ですら呆れるほどに。
今も道端の植木の影から野良猫が飛び出してきただけでびびって悲鳴をあげていた。ただ一人。
確かに陽も暮れて薄暗くてわたしもちょっと驚いたよ、でも悲鳴は上げません、さすがに。

「試合中はかっこいいのに、普段はほんと残念だよね…」
「えっ…」
わたしは呆れてものをいったというのに、隣を歩く彼は足を止めて大きな手で口元を押さえた。
「どうしたの?急に立ち止まって…」
「いや、だって…」

かっこいいなんて言ってくれたの、はじめてじゃん

手で隠れきれてない顔が真っ赤に染まっていた。

「あ…そう、だっけ?」
旭は顔を背けて声もなく頷いた。
言いたかったのはそこじゃなかったんだけど…旭はかっこいいというワードが相当嬉しかったようで…

「うん、かっこいいんだよ、旭は。だからね普段から試合の時のように堂々としてればいいんだよ?」
「うぅ〜…それができたら苦労はしないんだよ…」
嬉しそうな顔が困り顔に変わって、そしてずううんと肩を落とした彼はずいぶん小さく見える。

「ほんとしょうがないね、旭は」
呆れながらもそれが旭らしいなんて思ってしまうわたしもほんとしょうがない彼女なんだ。

「おーい、イチャイチャしてるとおいてくぞー?」
「二人のぶんの肉まん食べちゃいますよー」

気がつけばみんなとの距離がかなり離れていた。
「ダメー!すぐいくから残しといてよー?」
肉まん確保の念を押してから振り返り旭を見上げた。

スガにイチャイチャしてるって言われたのが恥ずかしかったのかまた顔を赤くして口をパクパクしてた。
ヘタレでへなちょこでさらには恥ずかしがり屋って、どんだけかわいいのこの人。

「旭、行こう?おいてかれるよ」
振り返り、先に歩き出したら追いかけてきた旭がわたしの手を握った。

「えっ!?」
「えっ!?」
ビックリして思わず声をあげた。
ビックリもしますよ!こんなのはじめてだったから!
そんなわたしにビックリして旭も声をあげて、ぱっと手を離した。

「ご、ごめん、手をつなぐのは嫌だった…?」
旭のおどおどして不安げな視線は見下ろされているのに足元でうるうる見上げてくるチワワみたいだ。

「なんでそんなに自信なさげなのかなぁ」
「ごめん…」
「全然、嫌じゃない!」
離れた手をわたしから繋いだら旭はまた、顔を赤くしてアワアワしていた。

「さっ、早くいこ!肉まん!」
「うん、肉まんな」
てをつないでた私たちはみんなのところについたとたんに冷やかされてしまった。旭はおどおどしながらもその手を離したりはしなかった。


[ back to top ]