何で泣いていたか、理由は聞かれなかった。
けれど、それ以来…
クラス全員分の提出物のノートを運んでいるときとか忘れた教科書を借りに行こうとしたときとか私が困っているとき、彼はさりげなく現れて私を助けてくれた。
そして今も、図書室の一番上の棚に本を戻そうと精一杯背伸びしていたら、本は私の手を離れ棚に戻されていった。
振り返ると笑顔の澤村と目があった。
「あ、ありがと…」
「どういたしまして」
困った人をほっとけない、澤村は正義の味方みたいだ。
本人にそう言ったらそんなことないよと否定した。
そんなこと、あるのに。
「俺は別に誰彼構わず助けてる訳じゃないよ」
ふと見せた真剣な表情にドキッとした。それは初めて見る顔だった。
「もしかして私限定?私だけの正義の味方なの?」
ざわざわする胸をごまかすように茶化すように言った。
澤村は少し考えるように斜め上を見上げて、それから私を笑顔で見下ろした。
「そうかもしれない」
それはとても爽やかで、とても心臓に悪い笑顔だった。
「…え、なんで?ちょ、同情とかならやめてよ?あのときはちょっと弱ってて涙もろくなってただけだし、私そんな弱い子じゃないし?」
彼の視線がいたたまれなくて視線を泳がし慌てる私はどこから見ても挙動不審だっただろう。
そんな私を見て、澤村は
「同情とか、そんなんじゃないよ」
と言った。
じゃあ何なの?
澤村はなんで私を助けてくれるの?
「あんまり気にすんなよ、俺が助けたくて助けてんだ」
「な、なにそれ…」
「俺が頼られたいんだ、ただ、そんだけだから」
気にするな、と言われても無理な話じゃないか。
こんな頼もしいヒーローが私を助けたいって言っているんだから