短編 | ナノ

辛い時は俺に言えよな

好きな人がいた。
去年まで同じクラスで、結構気が合う方で、笑いのつぼもドンぴしゃで、かっこいい方じゃ無いけれど、私は彼の笑う顔がとっても好きだった。

勇気を出し、こっそり呼び出して、思いを伝えたのだけれど

「ごめん、俺、好きなやついるんだ」

見事に玉砕だ。
もう彼と今までのように笑い会うことは無いんだなぁと思ったら、視界が涙で滲んだ。

「あれ、望月?」
誰も来ないと思っていた昼休みの体育館裏、それなのに…男子バレー部は昼休みも練習してるんですか?
出て来かけた涙を必死でこらえ笑顔を作って振り返った。

「よっ澤村、何してんの?」
「いや、それは俺の台詞だよ。俺は朝練の時に忘れた物取りに来ただけなんだけど…」

私は、フラれて一人でしんみりしてただけ
なんて言える訳もなく、言葉をつまらせ目を泳がせた。

「もしかして、なんかあったのか?」

心配そうな顔でまっすぐに見つめられて心が揺らぐ。
取り繕うために浮かべた笑顔も歪んだ。

「べ、別に、何も…」
澤村の視線が居心地悪くてつい視線をそらしてしまった。

「まぁ、言いたくないこともあるよな…」
澤村の方も気まずくなったのか視線を宙に泳がせた。頭をがしがしと掻きながら小さく悪い、と謝った。

謝らないでよ…
澤村が悪いことなんて何一つ無いのに
そう思うだけて言葉にならない
今声をだしたらなんかいろいろ溢れだしそうで

立ち去ろうと振り返った澤村がもう一度こっちを向いたから反射的に顔をあげた。
「でも、どうしようもなく辛いときは、俺に言えよな?なんか、力になってやれるかもしれないしさ、一人で抱え込むよりは打ち明けて楽になることも…」

ああ、この男はなんで、こんなにも優しいのか

「ぐスッ…」
「あるかもしれないし…って、え?望月?泣いてる…?」
「やめて、今優しくされたら、困る…」
溢れてきた涙を隠すように両手で顔を覆った。

「えぇ!?ちょ、ごめん!俺泣かせるつもりは…」
「あー!大地が女の子泣かしてる!」
「ばっ!違う!いや、違わないけどそんなつもりじゃなくてだな!」
その時体育館から顔を出した菅原のひとことに動揺する澤村が指の間から見えて、ちょっと笑った。



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