短編 | ナノ

いつかその先を言わせて

「潔子さんっ!今日もお美しいっす!!」

その姿を視界に捉えれば駆け寄って聞きあきた褒め言葉らしいものを声高らかに唱える。
そしてガン無視されて喜んでいる。

まったくもって理解不能。

そんな訳のわからないボーズ頭でうるさくて頭の悪いバカヤローを気がつけば目で追っていて、彼の笑顔で胸がキュンとなる私

まったくもって理解不能。

信じられないけど、どうやら私は絶世の美女である男子バレー部のマネージャーの清水潔子さんに恋をしている田中龍之介に

恋をしているみたいです。

「田中のどこがいいの!?」
友達に何度となく聞かれた問に私はまともに答えられたことがない。だって自分でもよくわからなくて、むしろ私が聞きたいくらい。

でも、一つだけ言える。
あんな怖い顔して、実は優しい。

「望月。すげー荷物だな、どこ行くんだよ」
「先生に頼まれちゃって準備室まで運ぶところなの、ちょっと手伝ってくれたり…」
「えー?俺これから部活なんです」
「通り道だよ?バレー部の体育館の通り道だよ?」
「俺の手を借りたいのならメロンパンを貢げ」
仁王立ちしてふんぞり返る田中、なんて憎たらしい。

「…ケチ」
それでも私は知ってる。
なんやかんや言いながらも、彼が困ってる人をほっとけないってことを。

彼に背を向けて歩き出すとふわりと荷物が軽くなった。
「…しょーがねぇなぁ。今日は特別タダで助けてやんよ」

こういう優しい癖に素直じゃないところが、好きなのかもしれない…とは思う。

理科室の準備室、鍵をあけて中に入る。
中には当然誰もいない。

…2人きりだ。

「望月、これどこ置けばいいんだ?」
「えっ?あ、あぁ、棚の横に置いといてって」
「りょーかい」

滅多にないシチュエーションにドキドキしているのは私だけだ。それが少し、悔しくて、でもそれが彼らしくもあって安心する。

「あー、先生の机にチョコあんぞー」
「ほんとだ」
「ご褒美に食っちまおうぜ」
先生の食べかけだったであろうアーモンドのチョコをポイッと口に運ぶ田中。
「ちょっと、勝手に食べちゃ…」
「お前も食え!」
「んぐっ」
言い終わる前の開いた口にチョコを放り込まれる。

「ちょ…何すんのー!」
口の中のチョコを飲み込んでから抗議した。
田中はしてやったりな笑顔を浮かべていった。
「これでお前も共犯なー」
あんまりにも楽しそうに笑うから何も言えなくなった。

この笑顔も、好きだ。
田中が笑う顔は、本当に楽しそうで、こっちまでつられて笑顔になるの。
考えたら私、結構ベタぼれなんじゃないかな。

「おっと、もう行かねぇと」
田中は時計を見て少し慌てたように言った。
「あ、ありがとね。助かった」
「お礼はメロンパンでいいぜー」
「…かんがえとく」
「ばーか、冗談だって。じゃあな!」

踵を返し戸に手をかけた彼を、私は呼び止めていた。

「なんだよ、まだなんか用あんのか?」
「あの、用っていうか…」
こっちに向き直った田中は首をかしげて待っていた、私の言葉を。

今なら言えるかも。
私の何かのスイッチがはいった。

「あのね、私、実はさ、田中のこと…」

ずっと前から好きでしたっ

この言葉は最後まで紡がれることはなかった。

「お?清水、スゲー荷物じゃん、半分持つよ」
「ありがとう、スガ」
廊下から聞こえてきたこの会話のせいで。

「潔子さぁあん!!俺もお手伝いします!!」
「うわっ!田中かっ!どっからでも現れんなお前」
「これくらい持てるから、大丈夫」

田中は一目散に部屋を飛び出していった。

…信じられる?
人が勇気を出して思いを告げようとしてたのに。
でもまぁ、こんな田中に告げたところで返事は分かりきっていた訳だから…言わずに済んで良かったのかもしれない。

それでも…
頭にきた。ものすごくあったまきた!!

見てろよ田中。絶対に、振り向かせてやるんだから!
覚悟していてね




匿名さん、リクエストありがとうございました!


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