つい、口をついて出た言葉。それは私が加わってない会話から聞こえてきたものだったのだけど
昼休み、クラスメイトである田中のもとに数人の部員が集まってきて雑談しながらお昼ご飯を食べるのはよくあること。そこで部活の話が出てくるのは当然のことでその会話が気になるのは同じバレー部の彼氏を持つ身としては当然なわけで…
「おう、2日から合宿所に泊まり込みだ」
好物だというメロンパンをほおばりながら田中は言った。
…聞いてない。
昨日メールしてたけどその話題には一切触れていなかった。
「…いいのか?望月」
ボーッと立ち尽くす私に縁下が声をかけた。
「え?」
「弁当を2つ持ってるってことはお昼、一緒に食べる約束してるんだろ?」
誰と、とは言われなかったけれどみんな知っている。
私がバレー部の誰とお付き合いしているかってことを。
「そ、そうだよ。みんなにかまってる暇ないの!」
縁下の横でニヤニヤといやらしい顔をしている田中と西谷の視線から逃げるように教室を飛びたした。
3年生の教室の入口から顔をのぞかせ愛しの彼の姿を探す。そして窓際でご飯を食べてる一団の中にその姿を発見した。
大地さん
恐る恐る声をかけようとするより先に、彼は私の姿に気がついた。
「おー寧々、今日は遅かったな、いつもすぐ来るのに」
「す、すみませんっ、田中たちの話に気を取られてて…」
「田中たち?…なんか言われたか?」
心配そうに顔を覗き込まれそれが結構な近さで心臓がとび出すんじゃないかってくらいにバクバクした。
「あっ、全然大したことじゃないんです!それよりゴハン、どこで食べます?」
「おー、今日は天気いいから外で食うべ」
リア充澤村爆発しろー
なんていう大地さんのクラスメイトの声を背に、二人で中庭のベンチに向かった。
「いつも悪いな、俺の分まで」
「いえ!好きで作ってるんですから謝らないでください!はい、どうぞ」
「さんきゅー、…今日も美味いよ、さすが俺の彼女」
わたし達は毎日ではないけれど一緒にお昼ご飯を食べる。その日のお弁当だけは早起きして自分で作る。大地さんに美味しいって言ってもらえるのが死ぬほど嬉しくて早起きの辛さなんてどこかに飛んでいってしまうんだ。
「それで、田中たちと何話してたんだ?」
お弁当のおかずを口に運びながら、大地さんは思い出したように口にした。
「…ゴールデンウィークの、合宿のことです」
わずかに言葉をつまらせた。
ほんの少しのそれに大地さんが気づかないわけもなく
「あー…それな、後で言おうと思ってたんだけど…3日間びっしり練習なんだ。悪いな、せっかくの連休なのに」
ポリポリと申し訳なさそうに頭を掻く彼に私は慌てて弁解した。
「いいんです!大会近いのわかってますし、烏野には勝ってもらいたいですもん!それに…」
一生懸命にバレーをしてる大地さんはカッコイイ、口から出てきたその言葉は彼の耳に届いたかどうかわからないくらい小さかった。でも隣で少し顔を赤く染めてる大地さんを見たらあぁ聞こえたんだなとわかって恥ずかしくなった。
「だから、3日くらい会えなくたって平気ですから!」
ホントは全然平気なわけ無い。1日だって会えないのはホントは辛い。デートだってしたかった。一日中一緒に過ごせたりするかなってちょっとは期待してた。
でも、大好きな大地さんの邪魔はしたくない。
ちょっとくらい出来たいい彼女を演じさせてください。
「ちょっと寧々、お前はゴールデンウィーク中一度も俺に会わないつもりなのか」
「え?」
大地さんは体ごとこちらを向いて真っ直ぐに見つめてきた。
「確かに、毎日練習だしデートとかする時間はないけど…寧々に会う時間くらい無理にでも作るよ。それに最終日は練習試合なんだ、応援しに来てくれよ、な?」
「………」
いいの?私、邪魔じゃない?大地さんに会いに行ってもいいの?
思いは言葉にならなくて口がパクパクと動くだけ。
そうしていたら、私の顔に大地さんの手が伸びてきて両のほほを挟まれた。至近距離で顔を覗き込まれて
「返事は?」
と私の返事を待つ大地さんに今までにないくらいいい返事をしたと思う。
「よろしい!」
大地さんは嬉しそうに笑顔を浮かべて私の頭にてを回し抱き寄せた。
中庭でご飯を食べてる人はわたし達だけじゃない、こんなとこ人に見られたら恥ずかしいとは思ったけれど嬉しすぎてちょっと泣きそうになってる顔を見られなくないから彼の背中に腕を回した。
あなたの言葉は魔法のよう
差し入れ持って応援しに行こう、練習も見に行ってみよう
デートはできないのは残念だけど、ゴールデンウィークがとっても、楽しみに思えてきた。
綜憂大志さん、リクエストありがとうございました!