![](http://img.mobilerz.net/sozai/99_w.gif)
![](http://img.mobilerz.net/sozai/99_w.gif)
ザアァァァ
『...』
雨が降っている。
ザアァァァ
『...』
血の匂いがする。天人のものか、攘夷志士のものか...
ザアァァァ
『?』
雨音が急に弱まった。顔を上げると傘が差し出されていた。
「風邪を引いてしまいますよ。」
『...』
「名前は?」
『...無い。』
「家は?」
『...無い。』
「お父さんやお母さんは?」
『...いない。』
髪の長い男の人だった。虚ろな私の目に、にっこりと微笑む顔が映る。
「私の家で雨宿りしませんか?」
* * *
「こんな所に居ましたか。」
『松陽…』
雨はとうの昔に止んだにも関わらず、ウチは雨宿りを続けていた。曇天の空が明るみ始めたのを見計らって出て行こうとしたが、独り身で寂しい私の話し相手になってはくれませんか、と言われたら歩みが進むわけもなく。気付けば半年が過ぎていた。
「父と呼ぶのにはまだ抵抗がありますか。」
『…ごめん。』
「いいえ、ゆっくりで良いのです。」
『…うん。』
「天気も良いですし、散歩でもしましょうか。」
差し出された手をおずおずと握ると、松陽はいつものように微笑んだ。私に合わせたゆったりとした歩み、その姿が生前の父親と重なった。俯いたウチに気付いた松陽が頭を撫でる。
「夢の居場所はちゃんと此処にありますよ。」
その温かい手に、また泣きそうになった。
『…ありがと、父さん。』
「いいえ。」
優しい陽の下で、ウチはまだ雨宿りをしている。