「あのね、私、ノボリさんが好きなのっ」
上目遣いで頬を軽く赤らめ、かと思えば瞳だけはぎらぎら挑発的に輝いている。引換カウンターの子だ。…多分。正直よく覚えていないけど。
「あなた、ノボリさんと仲良いでしょ?だからね、協力してもらえないかなって…思ってぇ。クダリさんにも協力してもらおうと思ってるんだけど、やっぱり女の子同士まずは話がしたかったの!…ダメかなぁ?」
お願い!と可愛らしく顔の前で手を合わせるその子。わぁーカワイイ。自分のカワイラシサを知ってないと出来ない芸当だよね!でもなぁ、きっとこれは「あんたべたべたしすぎなのよ調子のんな」と言われているのだ。まぁ!カワイイ顔して、女の子って怖いわ!
「ねぇ、聞いてるの?」
軽く頬をふくらませているその子。あぁ、馬鹿な男ならこの仕草で即落ちだなぁ。あれ、ていうかこの子、この仕草。この間ノボリさんをお弁当に誘った子じゃないか?そうだ、そう!思い出した!いやはや恋する乙女の行動力は素晴らしい。私なら好きな男を、かーいらしーお弁当で釣ったりできないよ!あの時のノボリさん面白かったなぁ。見た目第一なオンナノコらしいお弁当じゃ足りなかったんだろう、その後にカツ丼の出前取ってかきこんでたもの…!
男らしいったらありゃしない。
「ねーえぇー」
ああ、ごめんね!聞いてるよ、なあに?あ、ノボリさんとの仲を取り持って欲しいんだっけ?うん、いいよ、まかせて!
そう口から出そうとしたのに、実際こぼれたのは全然別の言葉だった。
「いや、無理だわ」
だって、ねぇぇ。
その外堀から埋めていくようなやり方とか、べったりした話し方とか、ぶっちゃけ鳥肌たっちゃう!あっは。それにさ、私が今のこの、新人にも目を掛けてくれた優しい2人に堂々なつける立場になるまでさ、どんだけ努力したと思うの?表ではヘラヘラ笑ってたけどあんた達の地味な嫌がらせにもすっごく耐えたよ。悩みなんかない顔してすっごく頑張った。2人のところにくっついてたのは防衛本能だった!サブウェイマスターの前じゃあ嫌がらせなんか出来ないもんねぇ。それで今は私に協力を請うの?やなこったー。
私はきっとあの2人のことを恋愛的に好きなわけじゃないけど、他の人に、しかもこんな風に渡す気なんかさらさら無いのだ。オーケイ?
「…好きなんだったら、やっぱり自分で蹴りつけた方がいいと思うよ!私はあの人たちとそういう色っぽい話できないからさー。いっつも怒られてばっかりで!」
あははー、出来る限りの無邪気さで笑ってばいばいと手を振った。その子は目を見開いたまま、「えぇえー、そんなことないよぉー」と固く笑っていたけれど、瞳にひどい落胆と、怒りと、侮蔑の色がありあり見てとれる。
ごめんね、私もあの2人大好きだからさ、おいそれと退くわけにはいかないんだよねー。
「じゃあー、私こんどノボリさん誘ってみようかなぁー?夕ごはんとかぁー。」
明らかに敵意の篭った視線でねめつけられるけれど、そんなの知ったこっちゃない。
「うん!頑張ってね!」
汚い手でも無様な真似でも、いくらでもすればいいよ!私だって黙ってむざむざ渡す気はないの!