昨日からノボリさんもクダリさんも出勤してこない。
クダリさんはまだしもノボリさんが無断欠勤というのは考えられないので、様子を見るべく私がお二人の自宅まで行ってくることになった。
玄関にカギが掛っていなかったのでそうっとドアを開けてみる。目に見える異常はないが明らかに普通の住宅ではあり得ない、むせかえるような濃い血の匂いがした。靴を玄関で脱ぎ恐る恐る廊下を進むと、リビングへ続くのであろう擦りガラスの入ったドアの向こう側に座りこんだような人影が見える。
…強盗とか殺人鬼だったら、どうしよう。
足音をしのばせて細心の注意を払いながらドアを開けてみると、そこにはクダリさんがぺたりと座りこんでいた。
「…クダリさん?クダリさん、大丈夫ですか?」
ぼうっと虚空を見つめているだけだったクダリさんの目が緩慢に私をとらえる。
「何があったんですか?クダリさん、その…服の、それは、血ですか?」
ああうん、そうなの、と力ない声でクダリさんはつぶやく。ノボリをね、さしちゃったの、ぽつぽつと語るクダリさんの目は濁って何も見ていないみたいだ。
「さしたって、どういう」
クダリさんがのろのろと立ち上がると、部屋の奥のキッチンへ向かう。それにならって付いていくと、そこには無残になかみを晒したノボリさんのからだ。
いい考えだと思ったんだけどな、ぼそりと呟いた言葉は私の耳にはもう届かない。