ノボリが最近ある女の子にご執心だ。そのせいで僕のことなんてほったらかし。なーんか、気に食わない。


彼女はとっても美味しい味がするんですよ、とうっとり言うノボリはちょっとオカシイ。他のものが目に入ってないみたいに、寝ても覚めてもその子の話ばっかり。今日も僕お仕事がんばったのに、いつもなら褒めてくれるのに、ぜんぜん僕のことなんか見てくれない。


たったひとりの僕の片割れがほかの人に持ってかれた気がして、とっても腹が立った!




「…クダリ?」


呆然とするノボリの左胸からは包丁が生えている。今僕がシンクから拾い上げて突き刺したものだ。そのまま柄をつかんで力いっぱいひねったら、ごぽごぽと気管を血液が満たす音と一緒にノボリはキッチンの床に倒れ込んで動かなくなった。


じわりと生温かい血が僕の足や腕を伝う。うん、これでしばらくはノボリも静かになるだろう。僕はやけに浮足立つ心でノボリの体を仰向けにする。


…そういえば、ノボリのいつも話すあの女の子はとっても美味しいっていってた。


ノボリにとって大事なその子が美味しかったなら、僕にとって大事なノボリは美味しいはずだ。
僕はこの素敵なアイデアを実行に移すべく早速ノボリのシャツを破くと胸から引き抜いた包丁をお腹にさす。ぶすり。
どれから食べようかなぁ。あぁ、あれがいいな。さくりと案外簡単に切り分けることができた肝臓の塊を口に突っ込む。ほとんど血の味で美味しいかどうかよくわかんなかったけど、少なくともとても満足した。


もともと僕らは一緒のタマゴだったんだから、今さら一緒になったって何の問題もないんだ。


ね、ノボリ、と声をかけてみたけれど、お腹の中身をぱっくりさらしたままノボリは返事もしなかった。





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