やわらかな声、瞳、髪の毛、腕、脚、丸みを帯びた体、彼女を形作る全て。それらが隣にあるだけで心拍数はあがり、話しかけられれば緊張のあまりつっけんどんな返しになってしまう。
今もわたくしの横に座りこちらをじっと見ている彼女が気になって仕事に集中出来ないほど。書類に目を通すも、文字を拾えずただ紙のうえを視線がすべっていくだけだ。
「なんです、何かわたくしの顔に付いておりますか?」
いつものようにぶっきらぼうに言葉を飛ばしてしまった。違うのです!本当はこんな風に言いたいのではない。本当は彼女に見つめられるだけで、全身の血がまるでアルコールのように熱く、幸福感をともなって、体のすみずみまでじわじわと染みていくような気持ちになるのだ。できることなら何時間だって見つめあっていたいと思っているのに、どうして口からこぼれる言葉は突き放すようなものばかりなのだろう?そんなあまのじゃくなわたくしに向かって、彼女はこともなげに笑う。
「いいえ、何にも!ただノボリさんがとってもうつくしいと思って」
そうですか、とぼそぼそ言って帽子の鍔をぐいと引き、目元を隠す。ああ恥ずかしい!顔が熱い。間違いなく赤くなっている。と、彼女にはこんな情けない顔など見られたくなかったのに被っていた帽子を取り上げられてしまった。
「返して下さいまし」
じろりと睨みながら言ったって、今のこのわたくしでは怖くも何ともないのでしょう。ますます笑みを深くさせて彼女は言葉を紡ぐ。
「嫌です、ノボリさんのうつくしい顔が隠れるから」
じわ、と羞恥心からか視界がゆがむ。嬉しくないわけがない、誰が好いた異性からの称賛を拒絶するだろう。
わたくしと同じ顔をした双子の片割れの方には、彼女は特別執着をみせていないようである。自分ひとりにそそがれている愛を感じた気がして、淡い恋心が期待に膨らむのがわかった。
いつかこの気持ちを彼女に伝えられたらいいと思っている。