図書館で勉強していたら押し殺した笑い声が聞こえてきた。見れば、トム・リドルが来館したのを目ざとく見つけた女子生徒が彼に熱い視線を送っているようである。女子生徒の興奮は伝播したようで、すぐに館内は甘ったるいさざめきでいっぱいになってしまった。
…これはいただけない。
談話室に戻って続きをやろうと立ち上がったら、ちょうど書架に本を探しに来たトム・リドルと目があった。あなたも大変ねえ、と尊敬の意も込めて会釈をすると、彼の向こう側にいた女子生徒からにらまれた。…女子って怖いわ。
三階の女子トイレの前を通りかかると中から気味悪そうに数人の女子生徒が出てきた。最近ここのトイレはあまり人が寄り付かないらしい。
「マートル…あなたまた泣いてるのね」
女子生徒のすすり泣きが響くトイレいうのはとても不気味だ。
「うっ、うっ…だ、だって…あ、あの人たちっ」
「…今日はどうしたの…」
「わっ私がたまたまトム・リドルとぶつかっただけでっ…」
カチャリと開いたドアの隙間から見えたマートルの姿にぎょっとした。
頭からつま先までぐっしょりだ。ローブの裾からぽたぽたと水が滴っていた。
乾燥呪文をかけてやる。彼女は一週間に一度は水がらみの被害にあうのだ、そろそろこの呪文も覚えたらいいのに。
「今日はずいぶんと派手にやられたのね?」
「代わりにあいつらの髪に枝毛の呪いをかけてやったわ」
地味に嫌な仕返しである。
「流石と言っていいのかしら」
フン!ほんとにあのトム・リドルの取り巻きどもったら!と、もうすっかり泣きやんでふてぶてしい態度の彼女。その態度も相まって女子たちからちょっかいを出されているのだろうということに多分気づいていない。
まったくお互い苦労するわね。