*グロテスク




















だって君の手が僕以外に触れるなんて許せない。一番良いのは君を世界の誰もから隠してしまって、僕だけが君の近くにいることだ。けどそれは君がとてもとても悲しむだろうから我慢するよ。だからせめて僕を君の一番近くに居させて欲しい。








ぐじゃり。


君が大切にしてたタマゴが割れちゃった。割ったのは僕。あーあ、もうすぐ産まれそうだったのにねぇ。どろどろの中身に混じって出来損ないみたいな溶けかけのユニランが床にへばりついている。生きてるかなんて知らないけど、少なくともこのまま放っといたら確実にじわじわと惨めったらしく死んでいくに違いない。それは流石にかわいそうだったからしっかり息の根を止めておいてあげた。片足に力を込めただけでそれは簡単に生き物としての形を失う。ぶぢゅぢゅと気味の悪い音が聴覚を犯す。あぁ嫌だな。ごきゅ、ぽきぽき、はやくなくなっちゃえ。
彼女の腕に抱かれて、彼女の体温を受けて、彼女の愛をめいっぱい貰うのは僕だけでいいんだから。

くだり、さん?


鼓膜を優しく震わせるこの声は君の。嫌だな、いつ来たの。いま君を僕からとっていってしまう邪魔ものを片付けてるんだ、ちょっと待っててね。ぐりぐりと踏みにじって足をどけたらもう原型なんか留めてないただのぐちゃぐちゃがあった。これでもう大丈夫。

くだりさん。


彼女の視線を辿ったらそこに転がっていたのは床に横たわる黒いコートを纏ったかたまり。真っ赤な水溜まりに伏しているそのかたまりはぴくりとも動かない。僕と同じ灰色の髪の毛は血に染まってぐしゃぐしゃだ。生きているときはノボリだったんだけど、今となっては何て呼んだらいいんだろう。


あ、あ、と喘ぐように引きつった声を発している彼女は腰が抜けているのか、ぺたりと駅員控室のリノリウムへ座り込んでしまっている。そんなところに座ったら体を冷やしてしまうよ。近寄って立ち上がらせるために腕に触れたら、びくりと大きく肩を震わせて縮こまってしまった。べたりと彼女の腕に赤い液体が付着する。君の真っ白い腕が汚れてしまった。嫌悪感がたちどころに僕の心へ沸き上がってくる。汚い。これでは洗い流しただけじゃあとても足りない。いっそその肉ごと削り取ってしまおうか。


目をつぶって小さい子みたいに身を縮める彼女の名前を呼べば弾かれたように目を開き僕を見た。僕を!この一週間というもの、君の瞳に映っていたのは僕じゃなかったね。僕とそっくりのもうひとつの顔を見てた。それからこのタマゴも。君の目に映っていたのはそれだけ。それが嫌で、嫌で、嫌で嫌で嫌で僕は君からそいつらを取っちゃうことにしたんだ。そしたら君は僕の方を見てくれるでしょう。そして今、君のきれいな両の目は僕を映している。僕だけを映しているのだ。なのに!











結局僕は君の心にまでは映れない。君の中に僕の居場所はない。君が世界から切り離されるのを望まないから、だから僕が君の世界からいらないものを全部切り取ったというのに。あぁあぁぁ君の感情のすべてが僕に向くことを望んでいたけど、向けられているのは憎悪、恐怖、それから拒絶。僕が一番欲しかった愛だとか慈しみだとかはまるでない。





僕を見つめる目に涙が溜まってる。呼吸が荒くなってる。彼女を恐怖が支配している。なんて可哀想。そうだ、僕を遠ざけるだけのそんな感情も切り取ってしまおうね。


ぐじゃり。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -