うっかり羽ペンを落としてしまった。拾い上げようと机の下を覗き込んだら凄いものを見つけた。これは面白いぞ!
「レギュラス!レギュラスちょっとおいでよ!」
ソファへ腰掛け暖炉の火に当たっているレギュラスを呼ぶ。すっごいうざそうな顔してるけど気にしないよ!
「これこれ、見て!」
「…何やってるんですか?僕に這いつくばれと?」
「違うよ、ここ見てって言ってるじゃん…!」
冗談です、と真顔で言って近寄ってきた。屈み込んで机の下を覗いたレギュラスは絶句する。そうでしょうそうでしょう!だって誰もスリザリンの談話室の机の裏側が一面ピンクだなんて思わないもんね!
「これ…」
「凄くない?しかもこれよく見て、これペンキじゃないんだよ!全部インクで書いた落書き!」
「ティー、…M、R…これもT.M.R、T.M.R…O.B、T.M.R、A.M、T.M.R、T.M.R…」
「ティーエムアールばっかりだね!イニシャルかな…あ、これフルネームじゃないの?トム・M・リドル」
きっとこれらは全部、かつてこの寮に属していた女生徒たちが願いを込めて刻んでいった物なんだろう。筆跡はそれぞれ違うけれどみんなとても丁寧な文字だもの。
「先輩先輩。見てください、ここにハッピーバースデーって書いてありますよ」
「何だってー!どこ?いつ?」
「Happy Birthday Tom…12/31.今日ですね」
「マジで!…あ、ほんとだ!よしレギュラス、祝おう祝おう」
「面識無いんですけど」
「細かいこたぁ気にすんな!もしかしたら将来の上司かもしれないし」
「そんなわけ無いじゃないですか」
「いいじゃんよー。何かしたいんだよー。今日で今年が終わりなのに全く何もしないなんてつまんない」
「……じゃあ先輩、夕日見に行きましょう」
「夕日?いいけど何で?」
「今年最後の夕日ですよ」
「おお!いいね!」
杖を一降りして筆記具を鞄へ仕舞う。
「早く行きましょう。直に日の入りです」
「あ、ちょっと待って」
私に手を差し伸べるレギュラスにストップをかけて机の下にもう一度潜り込んだ。生憎杖しかないから可愛くは出来ないけど。
「何してるんですか?」
「んん…よし、できた!」
アルファベット三文字をしっかりと刻んでから、怪訝な顔をしているレギュラスを振り返って今度こそその手を取った。