七日前、私は欠勤したらしい。
六日前、だるい体を引きずって出勤。
五日前、クダリさんとカフェへ。
四日前、ノボリさんにでこちゅーされた。
三日前、クダリさんとダブルトレインに。
二日前、報告書をトチってしまった。
昨日、車内清掃をした。
そして今日。今私はマルチトレインのホームでノボリさんとクダリさんの袖を握りしめて立っている。
この一週間を振り返ってみたが、わたしの記憶に残っているのはすべてサブウェイマスターの二人がかかわっている部分だけである。流石におかしい。そんな馬鹿な話があってたまるか。おまけにこの一週間、休日だって無かった。申し訳ないが代えの利かないノボリさんやクダリさんと違い、駅員である私たちには週に少なくとも1日は休みがある。本来ならば。いや休みはこの際どうでもいい。
「…ノボリさんクダリさん。私の話、聞いていただけますか」
自分自身の声がかつてないほどに硬質だ。
ノボリさんもクダリさんも驚いたように私を見ているのがわかった。
「わ…私、ここ一週間くらいの記憶がほとんどありません。トレインに来てくれたはずのお客さんの顔も、覚えてません。もしかしたら本当にただ忘れてるだけかもしれませんが…それでもすっかり記憶が抜けてるなんて不気味なんです。けど、お二人と一緒だった時のことだけはしっかり覚えているんです。ノボリさんとクダリさんにこんなことを言っても仕方ないのはわかっています。でも、何か、ご存じありませんか」
緊張で指先が震える。二人は何も言わない。
そろりと顔をあげるとしっかりと私を見つめる二対の目があった。ノボリさんもクダリさんも怖いほどの無表情だった。
「…ノボリー」
「ええ、わかっていますクダリ」
「どうするの?」
「然るべきところへ送りましょうね」
「わかった。あーあ、残念!ずっと居てくれるかと思ってたんだけどな」
「それは駄目でしょう。しかしこんなに早くいってしまうとはわたくしにも予想外でした」
「な、にを」
ぐいと両腕を取られた。布越しにもわかる冷たい二人の指が、がっちりと食い込んではがれない。抗えずにじりじりとホームぎりぎりまで引きずられる。
「大丈夫ですよ、おびえる必要はありません」
暗い線路の向こうから、小さな二つの光がだんだんと大きさを増しながらやってくる。ごとんごとんという音が大きくなっていく。
「じゃあね」
運転手は居なかった。視界を焼く真っ白な光と両腕から離れた指、背中に感じた強い衝撃、うるさいぐらいの車輪の音。それから何も感じなくなった。