ノボリさんとやたら目が合う。あ、今も。ぱちりと合って別に後ろ暗いこともないのに慌てて視線をそらしてしまった。


今日はまとめなくちゃいけない報告書がたくさんある。なんでも最近、人身事故が多いらしい。らしい、というのは、私がその後処理にかかわっていない為だ。幸いにも死者は出ていないそうだがダイヤが大幅に乱れ、その結果がこの紙の束である。こういうのってもっと現場に出てる人がやるものなんじゃないの。例えばノボリさんとクダリさんとか?あ、違うな。あの人たちは書類にハンコを押すだけだ。


ぺらぺらと一通りめくってから書きはじめる。私が見た事故でもないのに、自分でも驚くほどすらすらと埋めることが出来た。
被害者、女性。駅員。死亡。飛び込み自殺を図った男性をかばい線路に落下……ん?

いやいやいや。ここ最近は死亡事故なんてないんだったら。
どうも疲れていると自分でも思ってもみなかったことをしてしまう。だが妄想を提出書類に書きだしてしまうのはよろしくないぞ!我ながら妙なことをした。ともかくこれは書きなおさなくては。


もう一枚紙を出してきてがりがりとペンを走らせる。ふっと手元が暗くなったので顔をあげると、そこに立っていたのはノボリさん。じっと私、というか私の肘の下にあるさっき書き損じた書類を見ていた。


「あ、ちっ違うんですよこれは、その、ちょっと寝ぼけて妄想と現実がごちゃごちゃになったというかー、…すいません今書き直してますから!」


冷や汗をかきつつ更にペンを走らせるスピードを速めると、スッとボールペンの頭をつままれた。うわああ、相当怒ってるよ…!


「いいのです。お疲れのようですから今日はもう帰っていただいてよろしいですよ。先に寝ていてくださいまし。これはわたくしがやっておきましょう」


パッと取り上げられてしまった。これは暗に『お前にゃ任せておけねーよ』ということ…だろうか。きっとそうだろう。申し訳なさで足がすくんだ。すいませんでした、といって立ち上がり出口へ向かう。ドアを閉めるときちらりとノボリさんに目を向けたらまた目が合った。ひょっとしたらずっと見られていたのかもしれない。
頭が痛い。







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